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安倍晋三がマイナス金利に言及したが、ゲゼルから多くのものを学んでいるとは思えない2012/11/16 07:46

安倍晋三がマイナス金利に言及したが、ゲゼルから多くのものを学んでいるとは思えない


<関連記事>

「無制限緩和で脱デフレ進める」 安倍氏の発言要旨
2012/11/15 20:31
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1503S_V11C12A1000000/?dg=1

 自民党の安倍晋三総裁が15日に都内で開いた日本商工会議所との政策懇談会と、読売国際経済懇話会の講演での発言要旨は以下の通り。

 【金融政策】

 「政権を取った暁には日銀としっかり政策協調し、大胆な金融緩和をやって、市場が織り込み済みになってしまうような緩和ではなく、基本的には2~3%のインフレ目標を設定し、それに向かって無制限緩和していく。そういう市場に強いインパクトを与える、デフレから脱却し、為替に大きな影響を、そして株式市場にも影響を与えるような緩和策を進めていくことを約束する」

 「銀行が政府にお金を預ければ0.1%の金利がつくのは高すぎる。最も安全な日銀に0.1%で預けられるのであれば、すぐにお金は日本銀行に帰ってくる。それよりはむしろ逆にゼロにするか、マイナスにするくらいのことをして貸し出し圧力を強めていただかなければならないだろう」

 【環太平洋経済連携協定(TPP)】

 「聖域なき関税撤廃を条件として、これがなければ参加を認めないという姿勢には反対してきた。すべて関税ゼロですよということを突破していく交渉力があるかないか。民主党にないのは明らかだ。野田佳彦首相は選挙が近づいて急にTPPに言及した。この姿は菅直人前首相と重なる。思いつきの延長線上であっては交渉相手の思うつぼだ。私たちは違う。米国とは同盟関係だ。同盟関係にふさわしい交渉の仕方がある。同盟の絆をしっかり取り戻す中で、交渉などについても突破していく力があることをご理解いただきたい」

 【原発政策】

 「エネルギーの安定供給が経済成長の基盤だ。民主党のように2030年代に原発依存率をゼロにするような無責任なことは言いません。私たちは原子力規制委員会によって安全性が確かめられた、まず半年以内にルールを作って、そして3年以内に動かせるところは再稼働をしていくことは明確にしている。今、私たちに求められているのはこの決意があるかどうか、安定供給していくという責任をもった判断ができるかどうかではないか」

 【公共投資】

 「私たちはやるべき公共投資は行っていく。マクロ経済的にも正しい選択だと認識している。東海・東南海地震がくる、そうしたものに対して、国民の命を守るのは私たちの責任だ。地域がグローバルな経済の中で勝ち抜いていくためのインフラ、立ち上がっていくためのインフラ、そして生産性を高めていくためのインフラ整備についてはムダ遣いのないように、しかし、しっかり行っていく考えだ。その中で名目GDPをしっかり成長させていく。そして税収を増やし、財政再建に向かって進んでいきたい」


「インフレ目標2~3%へ無制限緩和」 安倍氏言及
2012/11/15 18:48
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1502B_V11C12A1EA1000/

 自民党の安倍晋三総裁は15日の都内での会合で、政権獲得後の構想を語った。金融政策ではデフレ脱却や円高是正に向けて、政府と日銀が協調してインフレ目標を設定する考えを表明。「2~3%の目標を設け、それに向かって無制限緩和し、市場に強いインパクトを与えたい」と述べた。

 日銀の政策金利に関して「ゼロにするか、マイナスにするくらいのことをして貸し出し圧力を強めてほしい」とマイナス金利にも言及した。

 自民党がこれまで交渉参加に慎重な姿勢を示してきた環太平洋経済連携協定(TPP)については「すべて関税ゼロを突破していく交渉力があるかないか。民主党にないのは明らかだが、私たちには突破していく力がある」と強調。民主党をけん制する一方で、政権を取った場合の交渉参加の可能性を示唆した。

 原発政策では「2030年代に原発依存率をゼロにするような無責任なことは言わない」と民主党を批判。「私たちは原子力規制委員会によって安全性が確かめられた原発は再稼働すると明確にしている」と発言した。


前原戦略相が安倍氏批判 「日銀の独立性度外視」
2012/11/15 20:38
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC1501L_V11C12A1EE8000/

 前原誠司国家戦略・経済財政相は15日の記者会見で、自民党の安倍晋三総裁が日銀に3%のインフレ目標などを求めている点を「日銀の独立性を度外視している」と批判した。前原氏も日銀に金融緩和を強く求めてきたが、「(安倍氏は)日銀法の改正が前提かのようで、投機筋が変な反応をしないか大変危惧している」と違いを強調した。

 安倍総裁は日銀に政策金利をマイナスにするなどの具体的な運営方針を要求している。前原氏は「今の法律の枠を超えた発言を繰り返しているのは違和感を覚える」と強い懸念を示した。

 同日開催した国家戦略会議は、11月中にまとめる経済対策や来年度の予算編成に向け、政府がまとめた政策資源配分の考え方を了承した。前原氏は「選挙結果がどうなるか分からないが、あくまでも予算編成をしっかりやるという前提で進める」と述べた。


コラム:金融緩和に依存する安倍氏の政策、財政規律緩むリスク
2012年 11月 15日 16:19 JST
田巻 一彦
http://jp.reuters.com/article/JPpolitics/idJPTYE8AE03Z20121115?sp=true

[東京 15日 ロイター] 安倍晋三・自民党総裁が講演などで打ち出しているマクロ経済政策は、日銀の金融政策に過度に依存している印象だ。自民党が次期衆院選で勝利して安倍政権が発足し、表明している政策がそのまま実行に移され、日銀が追加緩和政策として日本国債の買い取りを大幅に増加させた場合、積極的な公共投資の推進もあいまって、政府の財政規律が大幅に緩むリスクが高まる。

公的債務残高の対国内総生産(GDP)比率は、短期間で200%後半に上昇する懸念がある。

債務残高の急速な上昇は、日本国債の格下げを招き、円安と長期金利の上昇が互いに影響しあいながら継続する現象を発生させるだろう。安倍総裁は3%のインフレターゲットに言及しているが、債務膨張─長期金利上昇─円安の経路で物価上昇が実現する可能性がある。ただ、このケースでは残念ながら付加価値の増大は伴わず、スタグフレーションに陥るリスクが高いだろう。日本経済の成長力強化に的を絞った政策対応が、何よりも求められている。

<金融政策が柱、安倍総裁が強調>

安倍総裁は14日夕の講演で、自民党が政権を奪還した場合、デフレ脱却の政策では金融政策が大きな柱になるとの見解を表明。インフレターゲットを設定して達成まで無制限な対応が必要だと述べた。15日の講演では、インフレターゲットの水準が2%か3%かは専門家に議論してもらうとの方針を表明。2%の水準にも言及した。

また、15日には2013年度予算を景気刺激型にし、公共投資を増額させる方針も明言した。自民党は総額200兆円規模の国土強靭化計画を打ち出しているが、総選挙勝利後には早速、2013年度予算編成で実行に移す手はずになっているようだ。

マクロ経済政策における金融政策依存度の大きさと、公共事業を積極的に展開する政策方針は、一見すると別々の政策目的による別個の政策対応のように映る。しかし、私の目にはこの2つの政策が強くリンクしているように見える。

<緩和強化による国債買い取り急増、市場の警鐘機能弱めることに>

住宅ローン担保証券(MBS)の発行残高が巨大な米国では、量的緩和政策の一環として米連邦準備理事会(FRB)がMBS買い入れを主要な政策手段の1つとして実行できる素地が整っている。これに対し日本では、そうした流動性の厚い証券市場が見当たらない。その結果として、日銀が量的緩和政策を一段と強化する際には、日本国債の買い取り増が主要な手段にならざるを得ない外的環境の制約が存在する。

安倍政権が発足し、日銀が政府と歩調を合わせ追加緩和を強化するなら、日銀の国債買い取りは増加テンポを速めていくことが予想できる。日銀が国債買い取りを増加させれば、市場での国債流通量は減少し、需給のタイト化を背景に国債価格は上昇(長期金利は低下)するだろう。そのことは政権にとって、国債の新規発行を容易にさせる環境の好転と映るに違いない。

つまり市場金利が上がることで、財政規律の緩みに警鐘を与えるという重要な市場機能が、日銀の国債買い取り量の急増によって、実質的に失われることを意味する。痛みを感じないまま、国債を増発して公共事業の増加に充てることが、大手を振ってまかり通る展開が予想できる。

<安易な国債発行増、財政規律緩めることに>

財政規律の緩みを黙認するような政権の体質が露呈するようなら、消費税率の引き上げによる税収増を果たしても、財政赤字を抑制することは難しくなる。2012年度末に公的債務残高の対GDP比率は210%台に上昇するとの試算があるが、大盤振る舞いの財政出動を継続すれば、数年で200%後半に上昇する可能性が高まる。

300%に接近するような債務残高をみれば、日本国債の格下げは必至だろう。長期金利の上昇を待たずに円安が進行し、その円安進行をみて国内投資家にも財政悪化の危機感が広がれば、長期金利がある時点から不連続に上昇するシナリオの実現性が出てくる。このケースでは、円安による輸入物価の上昇などコスト増を背景に物価が上がり出すと予想される。

<金利上昇は日本経済の抱えた爆弾>

安倍総裁は、金融緩和の強化によって景気がよくなり、期待インフレ率が上昇して、物価が上がり出すというイメージを持っているように見える。だが、現実には財政規律の緩み─債務残高の累増─格下げ─円安と長期金利の上昇という経路で、物価上昇が引き起こされる懸念がある。
世界経済の動向にもよるが、円安と物価上昇によって日本企業のコスト競争力が低下し、日本経済全体として付加価値を生み出す力が弱まって、物価上昇と景気後退が併存するスタグフレーションの招来という最悪のケースもあり得る。

また、低成長と低い長期金利というペアで、巨額の債務残高を抱えながらバランスを維持してきた日本経済は、長期金利上昇という「寝た子」を起こし、危機的な状況に直面するという「爆弾」を実は抱えている。このことを安倍総裁が意識しているのかどうか、その点が政策遂行能力を推し量る点で、極めて重要であると指摘したい。


定着するマイナス金利、銀行再編の引き金となるか
滞留するマネーを刺激する劇薬の合理性
倉都 康行  
2012年8月8日(水)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120806/235362/?P=1

 ここ1カ月、ユーロの債務危機や米国の「財政の崖」と並んで、がぜん国際金融市場の注目を集め始めたテーマが「マイナス金利」である。金利はゼロが下限であるというのが市場の常識であったが、実際にマイナス金利が存在し得ることが欧州で証明されたからだ。ほんの少し前まで、マイナス金利とは1970年代にスイス中銀が為替管理の一環として用いていた歴史上の遺物でしかなかった。

 そんな異様な金利が、いま脚光を浴びている。ドイツをはじめとする欧州主要国の国債市場でマイナス金利が定着しているのである。債券には通常金利が付くので、この意味は分かりにくいかもしれない。例えば「1年債の利回りがマイナス0.1%」ということは、1年後の償還金10万円を確保するために10万100円支払う、ということだ。100円の損である。機関投資家ならば10億円投資で100万円損することになる。とても有り得ない話のように聞こえる。

 だがそれが、ドイツだけでなくオランダやスイス、フランス、オーストリア、フィンランドそしてデンマークといった国々の短期国債で観察されている。これは従来の債券市場では考えられないことであり、一時的な異常現象だという人も少なくないが、なかなか修正される気配は出てこない。

もはや「一時的現象」「異常現象」では説明しきれない

 最初に国債市場にマイナス金利が表れたのはドイツであった。同国が2012年1月初めに行った6カ月もの国債入札結果がマイナス0.0122%となったのである。流通市場ではまれにマイナス金利が生まれることがあったが、入札でのマイナス金利は初めてのことであり、市場では「ドイツがユーロを離脱してマルクに戻ることを先読みした買いではないか」といった声が聞こえた。

 もっともそれはギリシヤ不安などを背景としたややパニック的な異常現象だという見方が強く、その後数カ月間は市場もそれほどマイナス金利を意識しなくなっていた。ところが6月以降、このマイナス金利が流通市場に定着し始め、はじめは6カ月や12カ月という短期債に限定されていたそんな「氷点下の金利」が、2年債にも見受けられるようになる。そして7月にはそれがオランダなど他国の2年債市場にも波及するようになったのだ。これはもはや「一時的現象」「異常現象」という言葉では説明しきれないのではないか。

 スイス国債への投資は、一段のスイスフラン高を狙った投機的な思惑があると見ても良いだろうし、ドイツやオランダなど「ユーロ圏の勝ち組」への国債投資もユーロ崩壊リスクへのヘッジといった意味合いがあるのも事実だろう。だがより根本的に、ユーロ危機が「想定外の景気後退を引き起こす大惨事リスク」を市場が意識し始めたのだと捉えることもできる。想定外という言い訳は、いまや投資家にも許されない時代なのだ。

 国際通貨基金(IMF)は先月世界経済見通しを下方修正し、ユーロ圏に関しては2012年見通しをマイナス0.3%に据え置いたものの、2013年は0.9%から0.7%へと予想を引き下げた。だが政治の混迷を痛感する市場の読みは、もっと悲観的である。独り勝ちしていたドイツ経済までもが景気鈍化の波を受け始めた以上、ユーロ圏の景気後退はもっと厳しくなるとの見方は日々増殖中である。

 さらに、いつその悪循環から抜け出せるのか出口さえ見えない。そんな悪寒が、マイナス金利の定着の背景なのかもしれない。それは単なる市場現象というよりも、閉塞感極まった市場経済システムが、自ら発し始めた苦悩の軋みのようにも思える。そして日本国債市場でも、同じように短期債利回りがマイナス金利となるような事態が発生する可能性は、決してゼロではあるまい。

エンデの『モモ』の「時間貯蓄銀行」

 マイナス金利というと、筆者はドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデが描いた『モモ』のことを思い出す。1973年に発表され、日本でも3年後に翻訳されたこの作品を、小学生や中学生の時代にお読みになった方も多いのではないか。画期的だったのは「時間貯蓄銀行」という舞台設定である。

 主人公のモモは、友人たちが利子につられて時間をその銀行に預けることで逆に時間に追いまくられ、結果的に人生の意味を失うことに気付いて、その銀行家たちを消滅させる、というストーリーである。

 それだけ見ると、余裕なき現代社会へのありふれた警告メッセージのように聞こえるが、エンデの命題は、実は「時間泥棒」というコンセプトを通じて貨幣の胚胎する本質的問題を指摘することであった。この本は子供向けファンタジーの形式を借りた、手厳しい「反金利運動」の物語だったのである、モモが取り戻した「時間」は、「貨幣」のアナロジーだったのだ。

 時間を取り戻すよう指示するマイスター・ホラの家に向かうモモは、前向きに歩くと近づけず、後ろ向きに歩くと近づけるという体験をする。これはマイナス金利を暗示したものだ。歩いても止まっている、というゼロ金利状態も出てくる。時間貯蓄銀行とは、利子だけで生活する人々のメタファーである。

 エンデは、黙っていても増殖が可能になる貨幣の利子に対して強い疑義を唱えたのであった。その警告を『モモ』に託したのであるが、エンデがこの着想を得たのは、20世紀初頭の経済学者であるシルビオ・ゲゼルの「自由貨幣」と、同時代の思想家ルドルフ・シュタイナーの「老化貨幣」という二つのマネー論であった、と言われる。

 ゲゼルについては、あのケインズが「我々は将来の人間がマルクスの思想よりもゲゼルの思想からいっそう多くのものを学ぶだろうと考えている」と述べているように、当時から独創的な経済思想の持ち主として知られていたが、現代ではすっかり忘れられてしまった。貨幣は国家の管轄下にあることが当然視されるようになったからだ。

 ゲゼルは、1862年に現在のベルギーに生まれた。おカネだけが減価しないのはおかしいというその主張は、いわばマイナス金利を経済学的に解釈して見せたもの、とも言えよう。シュタイナーと同様に彼が提唱したマネーは、時間の経過とともに名目的に減価してしまうのである。世の中に存在する物質と同様に、エントロピーの法則に従う貨幣と言っても良い。

放っておくと消滅してしまう通貨

 この「ゲゼル・マネー」は20世紀前半に実際にドイツやオーストリアの地方都市で地域通貨として導入が試みられたことがあり、日本でゲゼルは地域通貨の提唱者としても知られている。このマネーの保有者は、減価する前に使ってしまうか、価値を保持するために貼付用スタンプを買って税金を払うか、という選択に迫られるのだ。

 これはいわば「放っておくと消滅してしまう通貨」である。仮に世界のマネーがすべてこうなると、経済観は一変する。一番困るのは銀行や大金持ち、そして小金持ちの高齢者らであろうが、ゲゼルやエンデが主張したようなマネー社会が一般化することは、現時点ではちょっと想定しにくい。

 だが現在のように異様なまでにリスク資産へ資本が流れない経済では、滞留するマネーを刺激することが必要であり、マイナス金利はそのための劇薬だと考えることができるかもしれない。その意味で、欧州市場に定着しつつあるマイナス金利は、金融資本に再考を迫るための重要な触媒効果を果たそうとしているのではないか。

 特にいま、おカネの使い方を考えねばならないのは銀行である。それは日本だけではなく欧米など先進国の共通意識となっている。日本は世界に先駆けて日銀当座預金残高を増額する量的緩和を開始し、「ダム論」と言われるような銀行融資増の効果を狙ったが、結局は空振りに終わった。

 米国や英国でも2009年以降、中央銀行が国債やモーゲージ債を対象に買い入れる「量的緩和」を導入してきたが、デフレを食い止めるのが精一杯で、銀行融資も増えず景気も一向に上向かない。先般米連邦準備理事会(FRB)が追加の量的緩和を見送ったのも、その効果の限界を認識しつつあるからかもしれない。

 もっとも、銀行融資が増えないのは資金需要が無いからでもあり、一概に銀行経営の所為とは言えない。銀行が預かる預金は100%返済が義務付けられており、とても無責任な評論家や経済学者が言うような「リスク・テイク」などできるはずもないからだ。不況時に威勢よく無担保融資拡大などの「リスク・テイク」を宣言する銀行に、預金する人はいないだろう。その結果、預金が集まり過ぎて行き場を無くして国債に流れるほかないという現代の問題が生じている。

 この構造欠陥は、銀行が依然として多過ぎることの裏返しでもある。欧州ではスペインが最も銀行が多いと言われるが、淘汰が進んだように見える日本でもまだ銀行は多過ぎる。そもそも資金需要があるところに資金調達手段として現れたのが銀行であり、カネ余りの時代に銀行はそれほど必要ないのである。その歪みが、別の意味でのマイナス金利、つまり中央銀行が超過準備に課すマイナス金利に現れ始めている。

マイナス金利導入は銀行経営の限界を示唆

 リーマンショックが発生した翌年の2009年7月に、スウェーデン中銀が政策金利の引き下げと同時に、預金ファシリティ金利のマイナス金利を導入して市場は驚いた。日本で言えば、日銀の当座預金にマイナス金利が適用されたようなものである。

 銀行は、金融政策の一環として中央銀行に準備金を置くことが要求されている。現在のような超金融緩和時代には、むしろ使用使途のない資金が必要準備の水準を超えて中銀に置かれるようになる。その超過準備を業界では花札言葉を使って「ブタ積み」と呼ぶが、スウェーデン中銀の政策は、余計な準備を積むくらいであれば手数料を徴収する、といったメッセージに読めたのである。

 実際には同国の銀行超過準備ほとんど中銀オペによって吸収されており、このマイナス金利で銀行にコストが掛かるような話ではない、との情報が伝わって、この政策への注目度は急速に低下したが、先月デンマーク中銀が同じように預金ファシリティ金利をマイナスにする、と発表して再び市場がこの政策に注目するようになった。

 デンマークの場合は、スウェーデンと違って銀行に実損が出ると予想されている。銀行は損失を避けるためには、どうしてもおカネを使わねばならない。だが貸出先は限定的であり、国債を買ってもほとんど利鞘がない。これは銀行業の行き詰まりである。極論すれば廃業するしかない。だが金融システムの健全化や市場経済の円滑化のためには、不要な銀行は退場してもらった方が合理的だ、との考え方も有り得る。

 デンマーク中銀がそこまで意図していたかどうかは別として、マイナス金利導入は銀行経営の限界を示唆するものだと言って良い。こうした動きが経済規模の比較的小さな地域に止まる限りはそれほど注目されないだろうが、7月に預金ファシリティ金利をゼロに引き下げた欧州中央銀行(ECB)も、次の一手として量的緩和よりもこのマイナス金利に注目している、と言われている。

いつかの時点で「劇薬」が使われる可能性も

 これまで各国中銀首脳は「マイナス金利は現実的ではない」と斬り捨ててきた。日銀の白川総裁は2010年の国会答弁で「理論的には面白いが実務的には困難」と述べている。FRBのバーナンキ議長は、準備預金の付利を撤廃することは短期金融市場にマイナスの影響を与えるとして、否定的な立場を表明している。ましてマイナス金利など論外、ということだろう。だが実務レベルでは、恐らくそのメリット・デメリットに関する研究が行われていると見てよい。

 現時点で日本の緩和策は資産購入、英米は量的緩和、ユーロ圏は政策金利引き下げといった具体策が採られているが、いつかの時点で大して効果のない現政策から軸足を準備預金へのマイナス金利に移し替える可能性が無いとは言えない。これは劇薬ではあるが、おカネの循環を刺激すると同時に、銀行業界に再編を促す契機にもなり得る。

 実質的に「預金課税」を意味するマイナス金利は、銀行の経営判断をかなり刺激するはずだ。中央銀行に預けても損するし、国債を買っても損をするのでは、何とかして運用先を増やさねばならないが、超低空飛行の経済において全銀行がその目標を達成することは不可能に近い。結論めいたことを言えば、今後世界的に銀行業界が縮小することは避けられないだろう。国債のマイナス金利と中銀のマイナス金利が、金融システム修正の引き金を引くことになるかもしれない。

 もちろんマイナス金利の下で皆がおカネの有効な使い道に知恵を絞るようになれば、実体経済が意外な方向へ動き出す可能性はある。それは危険な実験かもしれないが、金融業界にメリットが多く実体経済にデメリットを与えかねない通貨増刷の実験よりも、金融・実体経済双方への長期的なメリットが期待され、かつ迅速な政策修正が可能なマイナス金利の実験の方がわずかながらも合理性があると考えるのは、過激思想なのだろうか。

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