2012年問題:タイタニックに仕掛けられた団塊という時限爆弾 ― 2010/12/26 09:11
<関連記事引用>
政治がなすべき3つの政策(上)消費税上げ来年決断を。
2010/12/26 日本経済新聞
来年度の税制改正と予算編成がまた懸案先送りで終わった。現実を見ると、将来の危機から日本を救うには3つの政策が必要だ。誰が政権を取るかではなく、党派を超えて何をすべきなのか。やるべき第1は社会保障制度の立て直しに向けた消費税率の引き上げだ。もう時間はない。
記録的な寒波と相次ぐ財政危機に見舞われた欧州。今年の赤字が国内総生産(GDP)比で32%に達するアイルランドの首都ダブリンは、ひときわ荒涼たるものだ。教会の炊き出しには昨日まで家やクルマを持っていた人が長蛇の列をなす。
全家計の実に4分の1余りで公共料金や住宅ローンの支払いが滞り、生活費をやり繰りするのに借金に頼る家計は1割を超す。その市民生活は一段と厳しさを増そうとしている。大規模な財政再建を迫られたからだ。
政府は児童手当や公的年金を減らし、公務員を削減する。付加価値税を21%から23%に上げ、所得税や資産課税を強化する。無料だった水道に料金を課す。最低賃金も下げる。不況下の緊縮は景気下振れを招きかねないが、ほかに道がない。
今年5月に財政破綻したギリシャという前車の轍(てつ)を踏んだともいえる。ギリシャは赤字を隠す財政の粉飾、アイルランドは身の丈を上回る金融業の行き詰まり、スペインは住宅バブル崩壊と、財政危機の原因は異なる。それでも、政治が問題をやり過ごし、事態が悪化した点で危機の根は共通している。
リーマン・ショック後の世界金融危機に際し、各国は財政・金融政策を総動員した。その結果、1930年代のような大不況は食い止めたが、先進国を中心に巨大な財政赤字が残った。
この日本は最たるものである。根雪のように積もっていた財政赤字に、民主党がマニフェスト(政権公約)で大盤振る舞いした分が加わった。国と地方の借金の残高は約900兆円とGDPの2倍近い。ギリシャやアイルランドをも上回り先進国では最悪だ。
破れバケツの財政はとうてい持続可能ではない。しかも終戦直後に生まれた団塊の世代が定年を迎え、年金を受給するようになる結果、2012年からは年金や医療の負担がかさむ。さらに20年代にはこれらの人たちが介護を受けるようになる。時間の経過は事態を確実に悪化させる。
政治も国民も見て見ぬふりをしてこられたのは、家計も企業もお金を使うことに慎重で、国債の95%が国内で消化されるためだ。1400兆円の家計金融資産が預貯金に向かい、貸出先に事欠く銀行が国債を買っている。長引くデフレ不況下のマネーの流れが、1%台という低金利での国債発行を可能にしている。
アジア通貨危機後の韓国のように、日本が財政破綻し国際通貨基金(IMF)管理下に入る事態はそこまで迫っている。そうなったら、公的年金の2~3割カットや公務員の大幅削減は当たり前。消費税は今の欧州各国並みに15~20%上がってもおかしくない。
高齢化で家計金融資産が取り崩され、公的債務残高が家計資産をしのぐときがひたひたと近づいている。11年度予算のやり繰り算段をみても、12年度にはまともな予算編成はできそうもない。
それを見通した米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)などが日本国債の格下げに動くと、金融機関は値下がり損を恐れて売りに回る。国債が消化不能となれば、財政は破綻する。
与野党とも責任
来年は日本にとって文字通り生死の分かれ目となる。菅直人首相は24日、消費税増税について「年明けに方向性を示す」と語った。年金、医療、介護など社会保障を極力効率化する。そのうえで幅広く国民が負担可能な消費税改革に踏み切り、安心を取り戻す。与野党が垣根を越えて真っ先に取り組むべき課題だ。
もちろん、増税を吸収できる経済の基礎体力回復は欠かせない。デフレの克服を急ぐ必要があり、日銀は政府と歩調を合わせ効果的な金融緩和を進めるべきだ。
混迷する政局の帰結がなんであろうと、政治の喫緊の課題が社会保障と消費税の改革にあることは間違いない。内紛に揺れる民主党や、政権を批判する野党の政治家に、そんな自明なことがわかっているだろうか。
改革迷走瀕死の社会保障(上)団塊という時限爆弾――次世代ツケ回し断て。
2010/12/14 日本経済新聞 朝刊
団塊の世代が引退し社会保障の支え手から受給者になだれ込む2012年は目前だ。給付膨張の時限爆弾を前に、政府はいくつかの改革案をまとめたものの、与党の反発で腰砕けの状態にある。本質的な改革を封じたまま、瀕死(ひんし)の社会保障を再生する手掛かりは見えてこない。
年収は年金以下
「なんで引退した父の方が稼ぎがいいのか」。大手小売業に勤める高橋宏太(仮名、32)は釈然としない。宏太の年収は390万円。退職し企業年金も含め504万円の年金を受け取る父(69)より少ない。
就職氷河期の01年に入社してから昇給はなく、賞与は減った。毎週末ゴルフに出かける父を見ると「僕から税や保険料を取って父のような高齢者に配るのはおかしい」と思う。
現役世代の「仕送り」で高齢者の年金や医療を支える社会保障。40年前は10人で1人を支えていた。少子高齢化で今は3人で1人。10年後は1人を2人で支えなくてはならなくなる。
700万人近い団塊の世代が65歳で大量退職し始める12年。現役世代の負担増が加速する。社会保障費は毎年2・4兆円ずつ増え、消費税1%分の財源が毎年必要になる。
年金だけではない。この5年で65歳以上が6800人増えた徳島市。医療費がかさみ、国民健康保険の保険料を5年で3回上げ、年9万5569円と全国平均を大きく上回る。
11月30日、徳島県労働組合総連合などでつくる「国保をよくする会」は保険料引き下げの嘆願書を市議会に提出した。ただ、給付は負担で賄うしかない。徳島市は「赤字は今後も続く。保険料の引き上げか一般会計からの補填でしのぐ」(保険年金課)と言う。
「財政の児童虐待」
医療の時限爆弾は団塊の世代が70代に入る17年に火が付く。厚労省は現在1割の70~74歳の窓口負担を13年度から段階的に上げる案を検討している。ところが、69歳までの3割負担より低い2割にとどめる内容にもかかわらず、8日の民主党の部門会議では「自爆テロのような法案」(衆院議員の柚木道義)と反発が続出した。制度より目先の選挙ばかり優先する。
悪いのは団塊の世代ではなく、その影響を知りながら改革を先送りしてきた政治だ。民主党が看板とする年金改革は今年の参院選敗北後、消費税引き上げ論とともに封印された。団塊の引退まで時間切れ寸前の今回も、医療・介護の改革案は与党内の「高齢者負担に反対」の一言で金縛りとなっている。
政府見通しでは今8兆円の介護費用はこの先15年で24兆円になる。団塊の引退で、介護保険のサービスを利用する「65歳以上」が一気に膨らむからだ。居住型施設での介添えも限界を迎える。政府は12年度の改革の柱に在宅介護の充実を掲げたものの、利用者負担を増やす政府案は与党の反対ではじき飛ばされる。
内閣府の試算によると、現在90歳代の人の年金などの受取額は現役時代の負担を1471万円上回る。これから生まれる人は負担の方が7283万円も多い。米ボストン大教授のローレンス・コトリコフは「財政の児童虐待」と呼ぶ。「消費税を30%に上げるか医療費を45年で5割減らすか」。クレディ・スイス証券経済調査部の白川浩道は厳しい選択肢を示す。
年金、医療、介護の費用はこの25年で3倍の105兆円に膨らんだ。15年後には141兆円になる。恩恵を受ける高齢者にも応分の負担を求め、若者にかかる負担増を和らげる改革に、踏み出すのは今しかない。政治の覚悟が必要だ。(敬称略)
いつまで買われる日本国債(3)12~13年から環境変化、資金流入減る可能性(終)
2010/11/07 日経ヴェリタス
指南役 島本幸治さん(BNPパリバ証券チーフストラテジスト)
リーマン後に減った経常黒字、かつての水準に戻らず
財政悪化で国債の発行額が増え続けているにもかかわらず、銀行などが国債を買っているため、日本の長期金利は低い水準で安定していることを、前週述べました。財政は健全化するメドが立っておらず、政府は今後も国債発行に依存せざるをえません。これからも増え続ける国債を、いつまで吸収し続けられるのでしょうか。
政府の資金不足を、民間の資金余剰で吸収できるかどうかは、国内資金の余剰が続くかどうかを考えるのと同じです。経済学の教科書にあるように、国内資金の過不足、すなわち貯蓄と投資の差額は、経常収支に等しくなります。これは、分配面から見た国民総生産(GNP)の公式「GNP=消費+貯蓄」から、支出面から見た公式「GNP=消費+投資+純輸出+海外からの要素所得」を差し引くと、「貯蓄-投資=経常収支」という恒等式に言い換えられることで確認できます。現実に当てはめると、日本は経常収支が黒字なので貯蓄が投資を超過しており、米国は経常収支が赤字なので過小貯蓄だということになります。
日本の経常黒字の規模は世界で最も大きかった期間が長く、今でも中国に次いで2番目です。大量に発行される国債を吸収して余りあるほどの国内資金があったことになります。海外の投資家から見ると、円は安全な運用通貨でした。日本の国債市場や金融市場が安定していたのは、巨額の経常黒字という後ろ盾があったからです。
変化が見え始めたのは2008年秋のリーマン・ショック以降です。07年に25兆円あった経常黒字額は08年に16兆円に減り、さらに09年には13兆円まで縮小しました。かつては、過剰消費の米国の経常赤字が拡大するなかで、日本の黒字は拡大しましたが、金融危機で米国の消費バブルがはじけると、日本から米国への輸出は大幅に減り、経常黒字は急減しました。その後、アジア向け輸出の拡大で経常黒字は持ち直しましたが、かつての水準には遠く及びません(グラフA)。
団塊リタイアで経常黒字は減り、財政赤字は拡大
日本の人口動態から見ても、経常黒字額は中長期的なピークをつけた可能性があります。働く人は通常、リタイアすると貯蓄を取り崩します(ライフサイクル仮説)。国全体で見ると、働き手(生産年齢人口、15~64歳)の比率が高いほど、貯蓄は増えやすくなります。戦後しばらくは働き手が増えるのにしたがって貯蓄は増え、経常黒字も拡大しました。国債を発行しやすい環境にあったといえます。
日本の生産年齢人口の比率は1990年ころから、米国などに先駆けて低下基調に転じました(グラフB)。少子高齢化が急速に進んだためです。それまで膨らんでいた不動産バブルが90年を境に崩壊したのも、人口動態の変化によって日本がもはや高成長を期待しにくくなったという背景がありました。
バブル崩壊後、企業や家計の心理が悪化したことはこれまでは、長期金利の低下を促す要因となってきました。内需の低迷でデフレに陥りやすくなったうえ、企業や家計が設備投資や消費を抑えた分、余剰資金が国債市場に流れ込みやすかったからです。ちなみに欧米では現在、十数年前の日本と似た現象が起きています。米国では住宅バブルがはじけ、欧州では財政問題が深刻化しています。企業や家計のマインドが悪化し、物価の下落と長期金利の低下に直面しています。
日本経済は新たな局面を迎えつつあります。まず2012年には、「団塊の世代」と呼ばれる層の多くが65歳に達します。再雇用などで60歳以降も働き続けていた人たちがリタイアし、生産年齢人口は一段と低下する見通しです。そのころから、貯蓄率の低下や経常黒字の減少という現象がはっきりする可能性があります。銀行などでは個人預金が減り始め、金融機関の規模が縮小することも考えられます。
高齢化に伴って、日本の財政そのものが一段と悪化するリスクも無視できません。働き手が減れば、税収がさらに落ち込み、財政赤字は一段と増大しかねません。特に2012年以降、少子高齢化に伴う社会保障負担の増加が、国の財政を本格的に圧迫しそうです。
会計基準や規制の変更、価格変動リスクに厳しく
日本の長期金利は、絶対的な水準を見ると確かに低く安定しています(グラフC)。しかし、低迷する名目国内総生産(GDP)の成長率と比較して見ると、さほど低いとは言えなくなります。現在の水準はすでに、一定の「財政プレミアム」を反映しているとも言え、今後、財政プレミアムが本格的に拡大することも考えられます。
金融機関を取り巻く会計制度や規制が変わることにも注意が必要です。例えば「IFRS」と呼ばれる国際会計基準では13年ころをメドに、改訂ルールが金融商品に適用される見通しです。企業が保有する金融商品は、持ち切りを前提とした貸出金などの単純な金利商品を除けば原則、時価で評価しなければならなくなります。銀行などは、国債の価格変動リスクをより慎重に見る必要に迫られます。
国際的な銀行規制「バーゼルIII」には、国債を含めた資産の規模を一定の範囲内に制約する「レバレッジ規制」があります。レバレッジ比率については15年から数値の開示が義務付けられ、銀行は資産を増やしにくくなります。生命保険会社もこれまで、ソルベンシーマージン(支払い余力)規制の強化や、将来見込まれる負債の時価評価をにらんで、超長期国債を積極的に購入してきましたが、実際に新ルールが適用されるころには国債投資はピークアウトすることが考えられます。
日本の長期金利は世界で最も低い水準で安定していますが、この状況はいつまでも続くとは考えない方が良さそうです。経常収支が赤字に転じたり、金融機関が国債残高を圧縮せざるを得なくなったりすれば、それが大きな転機です。日本国債の行方を占ううえでは、2012~13年以降に控える環境の変化に注目する必要があります。
しまもと・こうじ 1990年、東京大学卒、日本興業銀行へ。調査部門で金利分析や経済予測を担当。2000年からBNPパリバ証券で投資調査本部長兼チーフストラテジストとして金融市場予測を担う。日本経済新聞社の債券アナリスト・エコノミスト人気調査の債券部門では06、08年に1位。金融庁の金融市場戦略チームや金融税制研究会、行政刷新会議の事業仕分けなどに参加。
記者席 2012年問題への対応が急務
2010/10/06 徳島新聞朝刊
団塊世代の大量退職で日本の社会が大きく変化する-。そう指摘された「2007年問題」だったが、実際にはどうだろう。60歳の定年後も継続雇用する企業が増え、「それほど変わらなかった」というのが多くの県民の感想ではないか。
そして今、クローズアップされ始めているのが「2012年問題」。06年に施行された改正高年齢者雇用安定法が企業に求める雇用確保の年齢は65歳。団塊世代が65歳を迎える12年こそ、本当の社会構造の変化が起きるとされているのだ。
県労働者福祉協議会が40歳以上を対象に行ったアンケートでは、約90%が「退職後の暮らしに不安がある」と回答し、5年前の調査を上回った。多くの企業で継続雇用が終了する65歳以降の暮らしに対し、県民の不安は高まっている。
長引く不況で将来の見通しが立たないまま12年を迎えれば、生活に苦しむ高齢者が大量に生じる恐れもある。国が推奨する「70歳まで働ける企業」の浸透をはじめ、2012年問題への対応が急がれる。(藤長 英之)
<画像引用>
The New Titanic, Europe’s Economy, is Going Down
http://www.newsrealblog.com/2010/06/06/europes-economic-titanic-is-going-down/
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