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ケネス・ロゴフ、次の金融危機の第一候補は中国だと語る2009/12/19 00:55

JP-WSJ:ケネス・ロゴフ、次の金融危機の第一候補は中国だと語る


12月15日、ウォール・ストリート・ジャーナルが日本語版ウェブサイト開設。
本ブログが注目してきたケネス・ロゴフが早速登場。

私は12月10日の「ギリシャに学ぶロゴフとブイターの影響力」でこう書いた。

今ギリシャが大ピンチ。
ギリシャに続くのはやはりアイルランドとなるのか。

それでは危機のピークはどこにある?
おそらくそれはチャイナ・バブルが弾ける時。

中国はバブルを防げなかった日本や米国とは違うのか?
おそらくロゴフは「中国が愚行に走らない保証などない」とクールに答えるだろう。


そして、やはりロゴフはWSJでクールに語っています。

世界は中国が成長し続けると考えているが、次の金融危機が起こる「第一候補」は中国だと。

原文では「中国はいつ危機が起きてもおかしくないほど非常に危険な状態だ」と語っていることも付け加えておきます。

チャイナ・バブルが弾けた場合、その大津波は日本を直撃する。
鳩山政権は想像を絶する危機の存在にまったく気付いていない。


<関連記事引用>

見通し暗いソブリン債
2009年 12月 18日 17:36 JST
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Finance/node_14165

 国際金融の専門家として、国際通貨基金(IMF)の元エコノミストでハーバード大学経済学部のケネス・ロゴフ教授とメリーランド大学のカルメン・ラインハート教授の右に出るものはいないだろう。大半のアナリストが過去30~40年間しか振り返らないのに対し、彼らは最近の共著でスペイン帝国以前まで遡って金融危機や国際破綻の歴史を幅広い見地から検証している。

 ロゴフ教授は、「増大し続ける世界各国の財政赤字は、ソブリン債の債務不履行など長引く経済的難局の前兆となり得る」として、歴史的視点からみても現況は憂慮すべきだという。

 ギリシャ国債のデフォルトに対する年間保証料は現在元本の約2.6%に達しているが、ロゴフ教授はギリシャが過去に債務不履行状態に陥っていた期間の長さを考えると、それでも低すぎると考えている。IMFも、実際に危機が訪れるまでは介入しない。

 バルト海や東欧の国々、アイルランドやスペインなども財政は非常に逼迫しており、先行きは不安だが、ユーロという共通通貨が政策の自由度を縛る。

 ロゴフ教授は、大きなソブリン債危機が来るのはおそらく数年後だという。かつては救済する余力のあった米国、ドイツ、日本が今は多大な債務を抱え、支援できなくなっていることが今後は非常に大きな問題となる。

 こうした状況は、米国民にとって何を意味するのだろうか。

 ロゴフ教授の結論は明るいものではない。

 教授はまず増税は避けられないとみている。社会保障や医療費負担をあわせると最高税率は50%に届くかもしれないといい、401kなどの節税対策をフル活用することを勧めている。

 教授が正しければ、いずれインフレが到来するだろう。「仮に先進国が債務不履行に陥るとすれば、それはインフレが引き金になる」と教授は語る。

 カリフォルニア州債のような米国の地方債も債務不履行の危険性を抱えている。現に、カリフォルニア州債の元本保証料はすでに2.35%で、ギリシャ国債と同程度に迫っている。

 また世界は中国が成長し続けると考えているが、教授は、次の金融危機が起こる場所として中国を「第一候補」に挙げている。


<関連サイト>

ホーム - The Wall Street Journal, Japan Online Edition - WSJ_com
http://jp.wsj.com/

What a Sovereign-Debt Crisis Could Mean for You
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Finance/node_14165/(language)/eng-US
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703323704574602030789251824.html

ギリシャに学ぶロゴフとブイターの影響力
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2009/12/10/4749187

『民主党の東アジア共同体構想を、EUに擬えることはできない。』 ksさん論文の紹介2009/12/19 13:59



『民主党の東アジア共同体構想を、EUに擬えることはできない。』
2009年12月 ks著す


「そして、このアジア主義は、一般に日本の国民経済が不振で、失意を経験しているときに限って強く芽を吹くのである。」
(曽村保信「地政学入門 外交戦略の政治学」1984年 中公新書より)


1.「EUの父」というリベラル左派風クーデンホーフ・カレルギー像

鳩山由紀夫氏の「友愛」という言葉は、パン・ヨーロッパ運動の提唱者クーデンホーフ・カレルギーに由来します。(参照1)

クーデンホーフ・カレルギー思想の日本への輸入者は、第一に鹿島守之助、次にクーデンホーフ・カレルギーの「パン・ヨーロッパ」の翻訳者である鳩山一郎でしょう。

また、鳩山由紀夫氏のブレーンと目される寺島実朗氏も、自らクーデンホーフ・カレルギーの影響を語り、同時に鹿島守之助に触れています。(参照2)

しかし、戸澤英典氏の論文「欧州統合運動とクーデンホーフ・カレルギー」(参照3)によれば、日本のクーデンホーフ・カレルギー受容は、かなりバイアスがかかっているようです。

(引用開始 参照3)
このアメリカの地域統合論を日本に持ち込んだ故鴨先生のようなリベラル左派の知識人と前節のエコノミストは別々ですけれども,乱暴にくくってしまうと,アメリカ経由のヨーロッパ統合像を持ち込んだという共通点があるのではないかと思います。
さらに,この保守派とは別ルートのヨーロッパ統合像の受容の際に,大衆文化的な要素が実は大きな影響を与えたのではないか,という仮説を私は持っています。
(引用終わり)

このように、初め、右派が導入し、途中からリベラル左派、エコノミストが合流して、現在の日本におけるクーデンホーフ・カレルギー像が作られます。

そして、鳩山氏は「今日のEUにつながる汎ヨーロッパ運動の提唱者となった。」(参照1)、寺島氏は「今日のEUに至る欧州統合の進展を目撃してきたが、常に思い返したのがクーデンホーフの存在であり、「思想は世界を制する」という思いを強くしてきたものである。」(参照2)と書いています。

実はこの認識は日本独自のものであり、ヨーロッパでは、

(引用開始 参照3)
ところがヨーロッパでの欧州統合史観はどうかというと,例えば私が3年間留学したドイツでは,クーデンホーフ・カレルギーが出てこない。EU に関心のあるスタッフなり学生でも,クーデンホーフ・カレルギーという名前を知らない。知らないだけならいざ知らず,ドイツ系の名前ではないから,発音もできない。
 (中略)
「オーストリアのEU 加盟はクーデンホーフ・カレルギー伯爵の生誕100周年にあたる1994年の国民投票によって決定されたが,この加盟決定に際して多少ともク伯の功績に言及した論評は皆無であった」そうです。クーデンホーフ・カレルギーがオーストリアで忘却されていることを示す端的なエピソードです。
(引用終わり)

という状態だそうです。


2.「友愛」とドイツ・ハウスホッファー地政学

また、同論文(参照3) には

(引用開始)
その際,次第に鹿島守之助自身の思想はパン・アジアからアジア主義,大東亜共栄圏というように,その内容を変化させていきます。1941年2月の講演から引用すれば,「最近は寧ろゲーリングあたりの現実的な案が取り上げられて居ります(中略)最近大東亜共栄圏と云うことが,日本の国策として非常に大きな問題になって居りますので,独逸にもさう云う議論があるのに比較して,支那,仏印,蘭印から日本に必要な食料,例へば鉄,石炭,護謨,錫を得る云ふこと以外に,東亜全体に段階を付して経済的,政治的,軍事的にどうするか,と云ふことに就いて,細かく御考へを願って置かなければならぬ問題でないかと思ふのであります。」
(引用終わり)

とあります。

大東亜共栄圏といえば、河西晃祐氏の「外務省『大東亜共栄圏』構想の形成過程」(参照4)に

(引用開始)
「共栄圏」という概念が用いられたのは、「戦後」世界秩序再編成にむけて、日本の排他的影響圏ともいうべき地政学的「範囲」を、すでに「生活圏」「生存権」を主張していたドイツに対して示したいという思惑があったからだと思われる。
(引用終わり)

とあり。ドイツ・ハウスホッファー地政学のリーベンスラウム(生存圏)の影響が指摘されています。

もっと端的に「日本外交年表竝主要文書 」1840ー1945(外務省)の「日独伊枢軸強化に関する件」(1940年9月16日 大本営政府連絡会議決定)には、

(引用開始)
 一、皇国の大東亜新秩序建設の為の生存圏について
 (イ)独伊との交渉において皇国の大東亜新秩序建設の為の生存圏として考慮すべき範囲は、
(引用終わり)

とあり、直接「生存圏」の用語が使用されています。(参照5)

この、鹿島守之助の思想遍歴をみれば、幕末~明治からのアジア主義に、クーデンホーフ・カレルギー流のパン・アジアが接木され、ハウスホッファー地政学のリーベンスラウムを取り入れて、大東亜共栄圏へと変貌したと見て取れます。

この変遷に断裂はありません。それぞれの内容に近しいものがあるために連続的なものです。

また、ジャーナリスト松永他加志氏の指摘によれば、小沢一郎氏には石原莞爾の影響があり、ECを手本にしているとのことです。

そして、石原莞爾の「世界最終戦論」にもハウスホッファーのパン・リージョンと同じものが見られます。

まず、最初に指摘しておくと、リーベンスラウムは、非常にランド・パワー的な発想、概念であり、当然、ハウスホッファーの戦略もまた非常にランド・パワー的なものであるということです。

そして、民主党の東アジア共同体構想は、「EUの父」というリベラル左派風クーデンホーフ・カレルギー像を用いながら、おそらくは無意識、無自覚に、大東亜共栄圏に取り入れられたハウスホッファー地政学を取り込んでいるといえます。

では、このリベラル左派風のEUは正しくEU統合の実像をとらえているのか?
統合にあたりEUにあった前提と、現在のアジアの内実、民主党東アジア共同体構想が前提とするものは同じなのか?
民主党の東アジア共同体構想を、EUに擬えることはできるのか?

否。民主党の東アジア共同体構想を、EUに擬えることはできない。
これが本稿の趣旨であり、そう考える理由を以下に述べます。

*ハウスホッファー  ドイツ地政学の大成者。ヒトラーが「我が闘争」を書く際にアイデアを与えた人物。ナチス・ドイツの戦略に影響を与えた。スターリンの個人的アドバイザーでもあり、ソ連の行動へのハウスホッファーの影響との指摘あり。(参考文献1)
*リーベンスラウム  生存圏、レーベンスラウム。ラッツェルに始まり、ハウスホッファーが採用した地政学の概念。領土拡大を正当化する理論的基盤となった。(参考文献1)
*パン・リージョン 統合地域。ブロック化。(参考文献1)
*ランド・パワー/シー・パワー マッキンダーが提唱した、機動力となる交通手段に着目したコンセプト。純粋な軍事力だけではなく、平和な時の交通や輸送、戦時の補給や兵站を維持して保護する力。(参考文献1)
*マッキンダー 英国の地政学者。政治家。現代地政学の基本コンセプトのほぼすべてを創出。(参考文献1)


3.EU統合「三つの基盤」

EUは、ローマ法学・ギリシャ(哲学)・キリスト教の三つを基盤としているといわれます。もちろん、国家の統合が可能となるには、共通の基盤が必要です。

では、三つの基盤をよく見てみましょう。
実は、すべて法についての話です。
ローマ法学はそのままですので、ほかの2つについてみます。

日本人にはピンとこないかもしれませんが、セム・ハム唯一神教では、信仰とは律法を守ることであり、それは神との契約です。旧約とは神との旧い契約の意であり、新約とは神との新たな契約の意です。法とは契約です。
ゆえに契約は絶対であるわけです。

私が注目するのは神ではなく、セム・ハム唯一神教思想圏における、法=契約の絶対性が、信仰のレベルで血肉となっている点です。
故にそれは強い基盤となりうる。

そして、西洋人が近代社会のルーツをギリシャに求めるとき、念頭に置いているのは、法に殉じたソクラテス。さらに、アテネ民主政の完成者であるペリクレスの「文明社会というものは法律である」という言葉です。

また、哲学というのならば、ソクラテスの弟子で、シュラクサイの政治にかかわったプラトンは、「国家」の後に「法律」を著しました。

その弟子、マケドニアのアレクサンダー大王の家庭教師だったアリストテレスは、アテネをはじめとするさまざまな国家の法律と国制を調べ、「政治学」を著わしました。
彼らの哲学は体系化されており、認識論や論理学に始まる彼らの学問は、政治に資することを目的の一つとしてきました。

「三つの基盤」が示しているのは、法こそが国家であるとの観念を共通の文明としてすでに共有しており、法の下での平等を原理として尊重、互いに保証しあい、(ローマ法的な)法体系を共有しているということです。

法を彼らの国体の基礎として位置づけているのです。
あるいは、法を彼らの国体の基礎として位置づけたからこそ統合できたのです。

日中が統合しようとして、互いに納得できる国体の基礎があるんでしょうか?
儒教や漢字が「三つの基盤」のような位置を、そこから国家の在り方を導き出すような位置を占めることができるでしょうか?
アジアに広げた時は?

また、「三つの基盤」は社会契約説に行き着きます。
国家を法律という契約の束として見ているわけです。
契約行為としての国民投票が国家や権力に正統性をもたらす由縁でもあります。
この思想圏では、選挙や国民投票は、単なる人気投票ではありません。

EUという超国家は、統合に参加するそれぞれの国の国民投票によって、国家としての正統性を与えられているわけです。

こういったことには、それなりの概念装置と概念操作が必要でしょう。

民主党が、将来的に日本の主権を委譲するとまで言っている東アジア共同体構想には、その超国家にどのように正統性を与えるのかまでは示されてはいません。

天皇のいる議会民主制国家と共産主義政治体制国家の、上位に位置するような超国家に、どのような概念装置でもって、どのように正統性を与えるつもりなのか?

もし、このような概念装置なしに統合しようとすれば、両国の国体の激しい衝突が生じるでしょう。

一方の、あるいは双方の国体の解体を招きかねません。


4.EU統合「三つの脅威」

「三つの基盤」を共有しているからと言って、必ず統合できるとは限りません。
事実、欧州は長らく分裂したままでした。

ライプニッツの宗教統合によるヨーロッパ統合の試みからクーデンホーフ・カレルギーのパン・ヨーロッパ運動までの平和的手段によるもの。
ナポレオン、ナチス・ドイツの武力によるもの。
成功したものはありません。

では、EU統合を促したのは何か?
冷戦による「三つの脅威」の共有である、というのが私の見解です。

1つ。革命の輸出の脅威の共有。

国体が共産主義ソ連とは違いすぎるうえ、革命の輸出が懸念されました。
いわゆるイデオロギーの対立です。
一般に流通している冷戦理解ですが、次に示すように、これだけでは終わりません。

2つ。マッキンダー流の地政学的脅威の共有。

マッキンダーは、歴史地理の研究をつうじて、半島の付け根から内陸にかけての付近が、半島とその内陸部双方にとって、安全保障上の脅威であることを見出しました。
フン族の侵入、モンゴル帝国。

東欧を内陸国家に抑えられることはヨーロッパ半島の死活問題です。
白いオルド、モンゴル帝国の後裔であるソ連の東欧支配は、その脅威をヨーロッパ半島の国家群に共有させたことでしょう。

逆にポーランド、バルト三国を抑えられることはロシア地域にとって脅威であり、ナポレオンの時代から侵入経路です。

**ポーランドが、現在の世界情勢をみる上で、鍵となっている地域の一つである理由はこれです。

日露戦争当時、シベリア鉄道の輸送力(ランド・パワー)に注目したマッキンダーは、シー・パワー国家英国国民として、内陸からのランド・パワーが西ヨーロッパに延びるのを警戒しました。おもに、ドイツとロシアに対する警戒です。

ならばと、ハウスホッファーは、マッキンダーの「ハートランド(ロシア地域)を支配するものは世界島(ユーラシア)を支配する」を応用して、「では、ソ連と組めばよい」と、独ソ同盟を構想しました。

しかし、ドイツもヨーロッパ半島内の国家であることを見逃し、半島と内陸の安全保障上の対立を無視、あるいは見落としたのでした。

独ソ同盟構想は失敗に終わり、両国は戦争に至ります。
「半島の付け根付近が、その両側の地域の安全保障上の脅威である」という法則が、独ソ・ランド・パワー同盟論に勝っていた、と言えるかもしれません。

そして注意すべきは、ソ連による東ドイツ支配が、ソ連との同盟論を、EU統合までの西ヨーロッパの選択肢から消した点です。

ハウスホッファー戦略は、当時の西ヨーロッパにはありません。
EU内部は「半島と内陸の安全保障上の対立」を抱え込んでいません。
あるいはEU内部にある安全保障上の対立以上に、ソ連との「半島と内陸の安全保障上の対立」が脅威だったと言えます。
独ソ同盟構想の失敗とEU統合の成功は対照的です。

**また、満州も同様の地域であったことは、重要です。朝鮮半島から見れば、侵入経路。中国からみても、万里の長城、金、清が示す通り。
「半島と内陸の安全保障上の対立」を抱え込みながら、共栄圏を唱えた姿は、独ソ同盟論に似ています。

3つ。エネルギー及び資源の安全保障上の脅威の共有。

冷戦の地政学的構造とは、ハートランド=ランドパワーのソ連と史上初の2つの太洋に面した帝国であるシーパワー・アメリカの対立でした。
世界島(ユーラシア)の沿岸部(リムランド)が対決の舞台でした。

多くのリムランド国家は陸路を塞がれ、アメリカがコントロールする海路を使用します。また海運がコスト的に一番有利でもあります。
しかし、資源ルートという命綱をアメリカという他国に抑えられた状況を共有することになります。

**アメリカの世界戦略の基本は、ランド・パワー的領土支配ではありません。海上交通支配のために、その要衝を抑えることです。
世界の海上交通を抑えることで、軍事的補給線のみならず、資源ルートおよび海を越えた市場間のアクセス・ルートをもコントロールできます。
海を使用する貿易の多くは、アメリカがコントロールすることになります。
陸のシルクロードが諸国の戦争でしばしば遮断されたのに対し、海のシルクロードを遮るものはなかった点に留意してください。

3つのECsの内、一番最初に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が先行して成立しました(1952年)。
安全保障なしには経済は守れず、資源の上に経済が成立するのであり、物資あっての軍事だからです。
石炭、鉄鋼が戦略物資でもあったことは重要です。

これらの脅威を現実問題として共有していたからこそ統合に動き始めた、と私は見ています。


5.EUと似て非なるもの

日中に「三つの脅威」の共有はありません。

1つ目の革命の輸出については、そもそも中国は輸出する側であり、ネパールの例を見れば懸念が残っています。(参照6)

3つ目のエネルギー及び資源の安全保障上の脅威ついては以下のようになります。

日本経済はシーレーン無しには成り立ちません。
実は中国もかなりシーレーンに依存して、海外石油資源への2006年の依存度は40%、2025年には80%に達するといいます。
また、石油輸入量の80%がマラッカ海峡を経由しているとされています。
(参考 元防衛庁防衛研究所主任研究官◆上野英詞「中国のエネルギー戦略と海洋の安全保障」海洋政策研究財団 http://www.sof.or.jp/jp/news/101-150/135_1.php

この状況だけみると、エネルギー及び資源の安全保障上の脅威を共有できそうにみえ、シーレーン確保で共同できそうに見えます。

しかし、中国はすでに、独自にシーレーン確保に動いています。
上記参考「中国のエネルギー戦略と海洋の安全保障」にもある「真珠数珠繋ぎ」戦略です。

これはすでに着手されており日本の協力は必要としていません。(参照7)
また、南シナ海を、すでに中国の海と見る向きもあります。(参照8)

中国が必要とするのは、アメリカとの棲み分け交渉です。日本の協力ではありません。
仮に、在日米軍が無くなっても、アメリカにはグアムを空母基地にする計画があり(参照9)、であれば、ディエゴ・ガルシアまでの連絡は保たれ、この海域の制海権はアメリカが抑えるからです。

**つまり、在日米軍が無くなったからといって、シーレーン・コントロールに参加できなければ、日本の自立独立が成るわけではありません。
ABCD包囲網を思い出してください。

2つ目のマッキンダー流の地政学的脅威は別の効果を生み出すでしょう。
「真珠数珠繋ぎ」戦略がもたらす効果です。

それは、資源ルートの維持には、軍事プレゼンスが使用されるのが常であるということです。中国の過去の行動も例外でなく、実際に軍事基地の設置とセットになっています。
また、「真珠数珠繋ぎ」の昆明ミャンマー・ルートは、かつての援蒋ルートであり、その戦略性が窺い知れます。

すると、上記参考にある地図を見ればわかるように、インド、東南アジアが中国に包囲されてしまいます。

インド、東南アジアはそれぞれ大きな半島と見做せ、まさに中国とマッキンダー流の地政学的脅威で対立してしまいます。

インド、東南アジアこそEUに比せられ、中国はソ連に比せられるべきでしょう。
半島対内陸でパワー・バランスが内陸に傾いたときどうなるかは、朝鮮半島の歴史が教えてくれます。

インド、東南アジアはモンゴル帝国に攻められた歴史を思い出しているかもしれません。
日本のシーレーンには緊張がもたらされます。

実際、印中には緊張が高まっています。(参照10)
最近のリー・クアンユーの、中国を非難しつつの鳩山共同体構想非難発言の背景の一つでもあるでしょう。(参照11 )
日本の中国重視、米国排除の構想では、この地域のパワー・バランスが中国に傾くからです。

シーレーンをこの地域にたよる日本にとって、この地域の脅威は日本の脅威です。
が、シーレーン確保で共同できない(中国側にその理由がない)中国との関係を先行させると、そのことがこの地域の安全保障に不安定をもたらす可能性があります。
少なくともインドにとって、日印安全保障協力共同宣言とは、日本と組むことで、中国とのパワー・バランスを保つ目的があったからです。

中国重視という民主党の東アジア共同体構想は、安全保障上の対立を含んでいたハウスホッファーの独ソ同盟論に似てきます。
そして、先に述べたように、独ソ同盟構想の失敗とEU統合の成功は対照的です。
また、大東亜共栄圏と比べるならば、「満州を抑える日本」を「シーレーンを抑える中国」に、安全保障の対立の地と攻守を入れ替えた構図となっています。

このように、ヨーロッパが共有していたものに関して、日中は対立的、競合的であるか、中国からは統合の必要性を感じないものになっているのです。

**インド洋上の自衛隊の補給活動、ソマリアへの自衛艦の派遣に対して、アメリカの言いなり、ガソリンスタンド、不正な利権が絡んだ行為、等々さまざまな批判がありますが、外交的には日印安全保障協力共同宣言とあわせて、シーレーンに日本のプレゼンスを示す意義があったことを指摘しておきます。
これは、補給という戦略的能力を示す行為であり、直接に戦闘部隊を送ることと同等以上の外交的効果があっただろうと考えます。
ここからの撤退は外交上のシグナル、メッセージとなるでしょう。(参照12)


5.NOTOという盾

最後にもうひとつ。
アメリカのリムランド戦略はスパイクマンの提言に基づいています。
そのひとつは、アメリカの同盟国以外のリムランド同士の結託を阻害する、というものです。

ヨーロッパはNATOの存在を、これを回避する盾、あるいはカモフラージュとして利用したのです。
ヨーロッパがアメリカに公然と従わなくなったのはEU成立以降です。

ド・ゴールのフランスはどうなんだ、という返しには、ヨーロッパがアメリカに取り込まれすぎないようバランスをとるヨーロッパ内の役割分担、と答えておきます。
フランスは、1966年にNATOの軍事機構を脱退していますが、NATOの政治機構は脱退していません。

このような盾が日本にあるのでしょうか?

*スパイクマン アメリカの地政学者。真珠湾攻撃の一カ月後にも満たない時期に、戦後の世界情勢を見据えて、勝利の後には日本と手を組むよう提言した。(参考文献1)
戦後アメリカの世界戦略の原点となった。


結び.

民主党の東アジア共同体構想とEUの内実は全く異なります。
前提とするものが違えば、欧州の実験は参考にはなりません。
このまま推し進めても、EU統合に働いたのとは、全く別の力学が働くだろうと予測します。

ゆえに、民主党の東アジア共同体構想をEUに擬えたりできないと考えるのです。(了)


参照1
「私の政治哲学」鳩山由紀夫 
http://www.hatoyama.gr.jp/masscomm/090810.html

参照2
「四六年前の手紙と寺島文庫」寺島実朗 
http://mgssi.com/terashima/nouriki0907.php

参照3
「欧州統合運動とクーデンホーフ・カレルギー」 東海大学 平和戦略国際研究所 発行 Human Security No.8 2003/2004   
http://www.tokai.ac.jp/SPIRIT/archives/human/pdf/hs08/01_05.pdf

参照4
「帝国」と「独立」−「大東亜共栄圏」における「自主独立」問題の共振(河西晃祐)からの孫引き 
http://www.k3.dion.ne.jp/~n-hiromi/kenkyukai/06/nakagawa.pdf

参照5 
2006年10月7日(土)「しんぶん赤旗」 
http://www.shii.gr.jp/pol/2006/2006_10/K2006_1007_2.html

参照6
「ネパール共産党毛沢東主義派が暫定政権復帰、ネパールの王制廃止へ:AFP」 http://www.afpbb.com/article/politics/2329345/2474949
「賈慶林常務委員、ネパール共産党統一毛沢東主義派議長と面会:2009-10-13 | チャイナネット」
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2009-10/13/content_18695320.htm

参照7
「中国、ミャンマー経由の石油パイプラインを9月着工 中東依存の日本に影響も:産経ニュース」 
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090618/chn0906180011000-n1.htm
「パキスタンと結ぶ道路、鉄道整備=中東につながる戦略拠点確保へ―中国 」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091107-00000016-rcdc-cn

参照8 
「中国の戦略的海洋進出」 
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b27351.html

参照9 
オバマ政権発足100日・安保戦略変化する東アジア情勢と米戦略 拓殖大学海外事情研究所教授 川上高司 
http://www.takashi-kawakami.com/paper-up/e-World513

参照10 
<中印>国境紛争が激化、シン首相の係争地訪問に中国が厳重抗議―シンガポール紙 
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=36234
または少し古いが 海洋安全保障情報月報 2005年7月号 
http://74.125.153.132/search?q=cache:1Hcpv6a7o-YJ:www.hotdocs.jp/file/79541/download/pdf+%E5%8D%B0%E4%B8%AD%E5%AF%BE%E7%AB%8B%E3%80%80%E3%82%B0%E3%83%AF%E3%83%80%E3%83%AB&cd=18&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&lr=lang_ja&client=firefox-a

参照11
「米国排除「重大な誤り」 リー・クアンユー氏、東アジア共同体で指摘:産経ニュース」
http://sankei.jp.msn.com/world/america/091030/amr0910302041012-n1.htm

参照12 
「中国、ソマリア海域に艦艇派遣:産経ニュース 2008.12.20」 http://sankei.jp.msn.com/world/china/081220/chn0812202307004-n1.htm
「中国、ソマリア海域に海軍派遣:中国画報」 
http://www.chinapictorial.com.cn/jp/se/txt/2009-02/04/content_176878.htm

参考文献1 
奥山真司「地政学 アメリカの世界戦略地図」五月書房

参考文献  
H・J・マッキンダー「マッキンダーの地政学 デモクラシーの理想と現実」曽村保信 訳 原書房
石原莞爾「世界最終戦論」中公文庫
ニコラス・スパイクマン「平和の地政学 アメリカの世界戦略の原点」奥山真司 訳 芙蓉書房出版
曽村保信「地政学入門 外交戦略の政治学」中公新書

参考サイト 
地政学を英国で学ぶ 
http://geopoli.exblog.jp/


***本稿は 「オフイス・マツナガのブログ!(現役雑誌記者によるブログ日記!)」
http://officematsunaga.livedoor.biz/archives/50958284.html
に初出のものに、筆者ksが加筆修正を加えたものです。