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鳥瞰・虫瞰・アレシナ教授=「増税(歳入増加)ではなく歳出削減に重点を」 、りそな銀行・エコノミスト・ストラテジスト・レポートより2012/01/18 08:27



<レポート紹介>

エコノミスト・ストラテジスト・レポート
~鳥瞰の眼・虫瞰の眼~

消費税率引上げと財政再建成功の条件

2012 年1月16 日
アセットマネジメント部
チーフ・マーケット・ストラテジスト 黒瀬浩一
http://www.resona-gr.co.jp/resonabank/nenkin/info/economist/pdf/120116.pdf

1月6日に「社会保障・税一体改革素案」が閣議報告され、野田内閣は、消費税率引上げの意思を明確にした。昨年6月に同内閣に閣議了承された成案の段階では、消費税率5%の引上げ幅のうち3%は財政再建、2%は社会保障の安定財源の確保充実とされていたが、素案ではこの区分は削除された。今回閣議報告された素案では、「消費税率(国・地方)は、「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」への第一歩として、2014 年4月1日より8%へ、2015 年10 月1日より10%へ段階的に引上げを行う(32ページ)。」と税率引上げの時期も明記された。国分の消費税は社会保障目的化されることとなったが、カネに色はないので、この消費税率引上げは部分的に財政再建と考えて良いだろう。

消費税率の引上げは、日本経済と株価にとって鬼門だ。過去の例では97 年4月の消費税率3%から5%への引上げとその7ヶ月後である11 月の金融危機発生(三洋証券、山一証券、北海道拓殖銀行など破綻)、またエスケープクローズ(景気情勢等に合わせて柔軟に財政を運用する規定)が存在しなかったために財政構造改革法が規定通り実施された橋本政権下における98 年度緊縮財政とその後の景気の大幅後退、を想起すれば十分だろう。その後を引き継いだついた小渕政権は、98 年11 月に財政構造改革法を棚上げして当時史上最大の景気対策を実施したことで景気は持ち直したものの、結果的に財政赤字は増加し続けて今日に至っている。株価は97、98 年に大幅に下落したが、財政政策が転換されたことで99 年以降は上昇に転じた(下図ご参照)。

景気の極端な悪化を招くことなく長期にわたり持続する形で成功する財政再建には一定のパターンがある。既に財政再建分野で近年最も注目を浴びるハーバード大学アレシナ教授、内閣府、IMF が戦後各国の個別事例から一般原則を導き出す良質なレポートを出している(注1)。重要なポイントとして

(1) 財政再建は景気回復期に開始する

(2) 財政危機など特殊事情がない限り、財政再建が経済成長に与える悪影響はできるだけ抑制する

(3) 景気の想定外の変動リスクに対処するための例外規定(エスケープクローズ)を設ける

(4) 増税(歳入増加)ではなく歳出削減に重点を置く

(5) 優れた制度設計(プロジェクト管理手法、法的枠組み、目標設定、PDCA サイクル、など)

(6) 国民の十分な理解(説明責任、透明性、もしなければギリシャのようにデモで経済は麻痺する)

などがあげられる。(4)について、下記(注1)(3)の論文でハーバード大学のアレシナ教授は、「財政再建策について、歳出削減と増税なしの組み合わせは、増税だけよりも成功する見込みが高い(1ページ)」と力説している。その論拠として、同教授は別の論文(「Fiscal adjustments: lessons from recent history」)で財政赤字の削減に追い込まれる多くの国では財政乗数が既に1以下だと推計している。財政赤字の増加に従って財政乗数が低下する現象は「非ケインズ効果」として知られている。「社会保障・税一体改革素案」の消費税率引上げの詳細設計では、(1)、(3)にはよく配慮されている。(1)は「経済状況を好転させることを条件として遅滞なく消費税を含む税制抜本改革を実施することが必要である。」と明記された。(3)のエスケープクローズも盛り込むと明記されている。

しかし、(4)、(5)、(6)に関しては不透明感が残る。特に(4)については上述したアレシナ教授の分析に加え、(6)とも強く関連するためなおさら重要だ。「社会保障・税一体改革素案」では第二節第二章に「政治改革・行政改革への取組」が設けられたが、全51ページのうち1ページだけだ。民主党が政権交代を実現した2009年総選挙のマニフェストでは、子供手当てや高速道路無料化などの政策を実現する財源として、「税金のムダ使いを(中略)根絶する」と明記されている。一方で2012年度予算では、整備新幹線未着工3区間への新規着工、八ッ場ダムの建設再開が盛り込まれる見通しだ。消費税率引上げ時期まであと2年3ヶ月だが、それ迄に十分な歳出削減がなされるのかどうか、徹底したチェックが必要だろう。(5)については、歳入に関する税制関連の措置をほぼ全て網羅する時系列の工程表は明示されたものの、歳出関連の項目は見当たらない。

このように(4)は非常に重要であるにもかかわらず、与党民主党内では、増税容認派と2009年マニフェスト遵守派の間で、行政改革などを巡りある種の政争の具になっている。しかも、多くの離党者が出るほど事態は緊迫している。その流れでマスメディアの論調も割れている。1 月5 日読売新聞の社説「消費税を政争の具にするな」では、行政改革より消費税率の引上げを優先すべきとのトーンを打ち出した。同日の産経新聞社説「公務員改革の覚悟みせよ」では、行政改革でマニフェストの履行を求めた。同日の東京新聞社説「民の力を活かそう、政治を諦めない」では、消費税率引上げの前に行政改革など歳出削減を優先すべきだとして、選挙で「信を問へ」と評論した。与党内情勢の緊迫を受け、今後の与野党協議は、各野党の財政再建に関するスタンスも明確でないため、相当な難航が予想されている。

だが、これらマスメディアの論調も悪く言えば政争の具と言えなくもないが、別な見方をすれば政府規模の大小と財政再建策の成否を巡る立派な政策論争であるとも言える。今月24 日(予定)から始まる通常国会では、本格的な政策論争を期待したい。政策論争の論点は、繰り返しになるが、財政再建の全体像が先に述べた6つの「成功する財政再建パターンの条件」を満たしているかで、特に(4)「増税(歳入増加)ではなく歳出削減に重点を置く」は注視する必要がある。投資家としては、これらを念頭に置きつつ、リスクとしては、冒頭に述べた97、98 年の再現とまではいかなくても景気後退や株価下落に注意する必要がある。今年は選挙制度改革も予定されていることから、政府規模の大小と財政再建策の成否を巡る政策論争が、政界再編の触媒になる可能性さえあるだろう(注2)。

以上

(注1) (1)内閣府「世界経済の潮流2010Ⅱ」は以下サイト
http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa10-02/pdf/s2-10-2-3.pdf

(2)IMF「Strategies for Fiscal Consolidation in the Post-Crisis World」は以下サイト
http://www.imf.org/external/np/pp/eng/2010/020410a.pdf

(3)ハーバード大学アレシナ教授の論文は以下サイト
http://www.economics.harvard.edu/faculty/alesina/files/Large%2Bchanges%2Bin%2Bfiscal%2Bpolicy_October_2009.pdf

(注2) 同シリーズのレポート「一票の格差是正は、経済の構造改革を推し進める(2011/1)」もご参照
http://www.resona-gr.co.jp/resonabank/nenkin/info/economist/pdf/110125.pd

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