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「市場対国家」の主戦場はいよいよ日本へ? 高速取引システムがもたらす日本国債急落リスク2012/01/03 08:00

「市場対国家」の主戦場はいよいよ日本? 高速取引システムがもたらす日本国債急落リスク


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▼〔特集〕Part1 市場vs国家 日本 
ヘッジファンドを招き寄せる国債先物の新システム
2012/01/10 週刊エコノミスト (画像引用)

東証が国債先物の新システムを導入した。「世界標準化」もいいが、市場の脅威を前に無防備すぎる。
草野 豊己(草野グローバルフロンティア代表)

 政府債務残高がGDP比で2倍を超える日本の10年国債利回りは1%強にとどまっている。だが、欧州の債務問題を対岸の火事だと、いつまでも高をくくってはいられない。コンピュータが価格や出来高などに応じて、自動的に売買注文を繰り返すアルゴリズム取引に直撃される条件が整ったからだ。

 東京証券取引所は11月21日に日本国債の先物取引を新取引システム、「Tdex+システム」に移行した。Tdex+は、デリバティブ取引所のNYSEライフが開発したシステムをベースとした。世界最高水準の処理性能を誇り、従来と比べて、注文処理量、注文処理速度が20倍以上にもなる。高速性も備え、注文応答時間は0・005秒となった。

 東証は取引制度の世界標準化も図った。取引時間は、これまで午後6時に終わっていた夜間取引を午後11時30分に延長した。これは、ロンドン夏時間の午後3時半、ニューヨーク夏時間の午前10時半に当たる。

 新システム移行により、海外のCTA(先物・オプションだけで運用するヘッジファンド)や、自己売買専門業者のロボットによる日本国債先物のアルゴリズム取引が容易となった。実際、取引高は稼働前比で147%増、夜間取引では159%も急増し、新システム移行の効果が早速示された。

 しかし、新システム導入で起きたのが、国債先物価格の急落だ。1日にせいぜい20銭程度しか変動しなかったものが、稼働日以降のわずか4日間で最大1円60銭も急落したのだ。

日本にも波及する独米の金利上昇

 システム稼働直後を振り返ると、11月23日にドイツ10年債入札が札割れに終わり、市場には衝撃が走っていた。日銀は10月に公表したリポートで、海外の国債市場が不安定化すると、市場間の連関を通じて日本国債のボラティリティ(変動率)が上昇する傾向にあると指摘していた。

 2000年以降のデータで推計すると、米10年金利が0・4ポイント上昇した場合、日本国債のボラティリティは翌日に0・1ポイント上昇、2~8日目も0・03ポイント程度の上昇が続く。ドイツ10年金利が上昇しても同じ傾向で、「米国とドイツで発生した金利上昇ショックは、国内金利に対して相応の影響力を有している」と解説している。

 日本国債先物の売買シェアは、11年10月時点で海外投資家が38%だが、証券会社のディーラーを除くと、実質的なシェアは67%にも達する。さらに、新システム導入で、海外の大手CTAなどの新たな参入が加速することが予想される。現物国債の大半を国内勢が保有していても、海外投資家の影響力が予想以上に大きくなることを肝に銘じておくべきだ。

 新システム稼働により、日本が夜のうちに国債先物で価格が下落し、朝になると一斉に国内金融機関が国債売りを迫られるという事態も想定しておかなければならなくなった。金融機関はVaR(バリュー・アット・リスク)と呼ばれる手法で保有国債のリスクを管理している。03年6月には先物主導による国債価格の急落(金利上昇)から、このリスク管理基準に照らすと「過大な金利リスクを負っている」と評価されたことで、各金融機関が連鎖的に国債売却に走り、金利が急騰した。

 特に影響が大きいのは地方銀行だ。先述した日銀リポートでは、海外の金利上昇は、5年を超す中長期債の保有を増やしている地銀への影響が大きいとしている。

 金融市場に生じるわずかな変動を突いて、ファンダメンタルズとは何の関係もなく無機質に取引を進めるロボットトレーディング。日本は海外マネーを引き入れるための世界標準化を急いだ結果、実体経済を支配し、国家をも凌駕し始めたロボットをあまりにも無防備に招き寄せてしまったことになる。


▼高速取引がもたらす国債急落リスク 新システムで夜間の変動拡大の恐れ
2011/12/20 07:30 日経速報ニュースアーカイブ

 欧州の債務危機によって、市場が思い知らされた国債急落の恐ろしさ。国債の95%が国内で消化されている日本では、南欧のように大きな価格変動は起きにくいとの見方がなお支配的だ。だが、本当にそうなのだろうか。東京証券取引所が11月末に実施した制度・システム変更によって、実は「高速取引」という新たな「リスク」が芽生えつつある。マーケットを引っかき回しかねないこのリスクに、市場関係者の目が行き届いているとはまだ言い難い。

 【高速取引が国債相場に影響も】

 東証が導入した新しい先物取引システムとは「Tdex+」のことを指す。稼働開始は11月21日で、このシステムの特徴は処理能力の飛躍的な向上だ。市場参加者が東証に株価指数先物や国債先物の売買注文を出してから、東証が受付完了を知らせるまでの時間(注文応答時間)は従来の二十分の一に縮まった。東証は同時に株式の前場の取引終了時間を11時から11時30分に遅らせる制度変更も実施。多くの投資家の関心は昼の取引時間延長の方に向かったが、注目すべきはむしろTdex+の方かもしれない。

 「朝、目覚めたら、日本国債が急落していたという事態が起きかねない」。永田町や霞が関の関係者を相手にした勉強会で講師を務める草野グローバルフロンティアの草野豊己代表取締役が、こんな警鐘を鳴らし続けている。「Tdex+導入で市場が様変わりする可能性が高い」と見ているためだ。

 【急落懸念が的中】

 一部の市場関係者が懸念する市場の変調は、すでに起きている。11月25日、国債先物取引の中心限月(当時は12月物)が急落した。日中取引の終値は142円29銭。前日比51銭安という下げ幅は、東日本大震災直後の3月16日以来の大きさだった。

 先物に売りが広がった直接のきっかけは、日本の財政不安を指摘した米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の24日のコメントだ。しかし、それ自体に目新しさはあまり無い。にもかかわらず、市場は水鳥の羽音にビクつくかのように反応。同日の夜間取引では国債先物相場が下落し、25日は朝方から売りが殺到した。

 先物相場の下落に併せ、25日の現物債市場では新発10年物国債の利回りが約3カ月ぶりに1%を上回った。Tdex+の稼働をきっかけに「相場の変動率が高まるのではないか」(国内証券の債券ストラテジスト)という市場の警戒が的中した格好となった。

【夜間取引に流動性リスク】

 国債先物中心限月の11月21日以降の売買高は1日平均3万枚あまりと、年初から11月20日までの平均枚数と比べ3割増えている。もちろん、欧州の債務危機や日本の財政不安を巡る新たな材料に加えて、中心限月の交代といった需給要因が重なった面もある。だが、見逃せないのはTdex+の稼働に伴い、15時30分から18時までだった先物の夜間取引の時間帯が23時30分まで延長された影響だ。

 夜間取引には今のところ、「流動性不足」という弱点がある。市場参加者が少ないのは、コスト負担を敬遠する多くの証券会社が参入に二の足を踏んでいるためだ。顧客の注文を取り次いだり、自己売買したりするには、トレーダーやディーラーのほか内部管理者も置く必要がある。人件費がかさむだけではない。システムの開発・運営負担などコストも増える。例えば、準大手証券クラスだと発注システムの運営費は月間200万円前後増えるという。

 参加者が極めて少ない中で、ヘッジファンドやCTA(商品投資顧問)などが一度に大量の注文を出したらどういうことが起きるだろうか。ロスカット(損失限定)目的の注文を巻き込み、わずか20分あまりの間に3円以上も円高・ドル安が進んだ3月17日早朝(日本時間)の外国為替市場と似たような状況が起きる可能性は否定できない。SMBCフレンド証券の永松英登市場営業部長は「夜間取引は現時点ではまだ価格変動リスクが高い市場だ」と語る。

 Tdex+のベースはニューヨーク証券取引所(NYSE)などを運営するNYSEユーロネクストグループの取引システム。東証は将来、日米欧の証券会社が1台の売買端末で東証にもNYSEユーロネクスト傘下の証取にも注文を出せるようにしたい考えだ。そうなれば、欧米市場と同時進行の日本の夜間取引に海外マネーが大挙流入し、国債先物市場における外国人の存在感が今以上に高まる公算が大きい。

 日本国債は大半を国内投資家が保有していることで、価格変動リスクが小さいとみられている。だが、この「安全神話」は「先物主導で揺らぎかねない」状況にある。一部の市場関係者が指摘するこんなリスクは、絵空事と言い切れるのだろうか。〔日経QUICKニュース 編集委員 永井洋一〕


▼〔グローバルマネー〕高速取引に直撃される日本国債
2011/12/20 週刊エコノミスト

 3月11日の金曜日に発生した東日本大震災。週明け14日の日経平均株価は633円安、続く15日は1015円安と引け値で約半年ぶりに9000円を割り込む全面安の展開となった。特に15日の下落率は10・55%と、1987年のブラック・マンデー、2008年のリーマン・ショックに次ぐ過去3番目の大きさだったことが目を引く。

 大震災に覆い隠されているが、この急落を主導したのは大阪証券取引所で取引される日経平均先物だ。日経平均先物は3月15日、9000円を割り込むと一気に下落し、午後12時45分には前日比1800円安の7800円まで急落。その後は急反転し、800円も戻して取引を終えた。なぜこれほど乱高下したのか。

 その背景には、大証が今年2月14日から導入した新取引システム「G-GATE」がある。これまでに比べ、注文処理量が15倍、注文処理速度が20倍という高速システムだ。これにより、アルゴリズム取引(プログラムによる自動売買)を行っているヘッジファンドや自己売買専門業者が、1000分の1秒単位で高速売買することを可能にした。つまり、3月15日の急落・急騰はアルゴリズム取引が引き起こしたのだ。

 同じことが、日本の長期国債市場でも起こる可能性が出てきた。東京証券取引所は11月21日、先物取引を新システム「Tdex+」へ移行した。世界最高水準の処理能力で、これまでに比べて注文処理量、注文処理速度が20倍になる。東証はまた、日本国債先物のイブニング・セッション(夕場取引)の終了時間も午後6時から午後11時半へと延長した。

 この結果、長期国債先物に起きた変化は顕著だ。1日にせいぜい20銭程度しか変動しない長期国債先物価格が、稼働日以降の5日間で1円30銭も急落。取引高も稼働前比で147%の増加、イブニング・セッションでは159%も急増した。これは、新システムの導入でアルゴリズム取引をさらに容易にしたからだ。

 日本の10年物国債の利回りは、政府債務残高が国内総生産(GDP)比で2倍を超えるにもかかわらず、1%強にとどまっている。海外投資家による保有比率がわずか7・4%で、残りは金融機関の65・4%を筆頭に国内投資家が保有しているからだ。しかし、長期国債先物の売買シェア(今年10月)は海外投資家が38%、証券会社を除いた実質ベースでは67%にも達する。

 日本の長期金利が1%上昇(国債価格は下落)するだけで国債の利払いは2兆円も増加し、国内3大メガバンクの含み損は2・5兆円にもなる。金融市場に生じるわずかな変動を、感情がなく無機質なアルゴリズム取引はいとも簡単に増幅させる。欧州の債務問題を対岸の火事だと高をくくっている日本政府と金融機関が、アルゴリズム取引に直撃される条件は整った。(グローバリスト)


「カモーン・ヘッジファンド!」 イタリアに学ぶヘッジファンド利用・活用術
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2011/12/05/6233763

「ヘッジファンドが日本を救う」――トリックスター利用・活用術
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2011/12/28/6266547