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白石隆×秋田浩之「日本は日米同盟を基軸に対抗するほかない。歴史問題には踏み込むべきではない」2013/12/29 09:01



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アジア安保網、日米軸に 政策研究大学院大学長 白石隆氏
2013/12/29付日本経済新聞 朝刊
http://www.nikkei.com/article/DGKDZO64745480Z21C13A2MM8000/


 ――安倍晋三首相の靖国神社参拝には中国や韓国だけでなく、米国からも批判が出ています。


 「首相が靖国神社に参拝するのは望ましくなかった。中韓は日本が右傾化しており、先の大戦の歴史もわい曲しようとしていると宣伝している。米欧でも、それに同調する人々が増えるだろう。外交的には日本が首相の参拝によって得るものは何もない」

靖国参拝で一変

 ――安倍政権は来年、そこからどう外交を立て直すべきですか。

 「日本がいま、やらなければならないのは日米を基軸にオーストラリア、インド、さらには東南アジア諸国と連携し、多国間の安保協力を築くことだ。それによって、アジア太平洋での力の均衡を保つ必要がある。その意味で、安倍政権は今年、やるべきことをやってきた。首相が参拝するまでは、来年の見通しをとても楽観していた。だが、参拝で状況は一変した。来年、日本の外交はかなり難しくなると心配している」

 ――アジア情勢の変化は待ってくれません。

 「東シナ海や南シナ海での行動、防空識別圏の設定などにみられる通り、中国は力で秩序を変えようとしている。10年前、世界経済に占める中国のシェアが5%以下のときはそれでもよかった。しかし、2010年には9.4%になり、20年代前半には20%に達するだろう。中国がこれからも同じことができるのか、世界的に大きな問題になると思う」

 ――同じアジア諸国でも、中国の台頭への対応には違いがあります。

 「日本は日米同盟と自助で防衛力を強めようとしている。しかし、韓国は北朝鮮への対応で米中に頼らざるを得ない。中国への輸出依存度も25%を超える。このため、韓国は事実上、中国主導の秩序を受け入れる方向に動いている。そこで行き場のなくなった国粋主義が反日に向かっている」

 ――東南アジアはどちらに向かうでしょうか。

 「東南アジア諸国の多くは中国に対して日本と同じような懸念をもっている。中国が自分のルールを周辺諸国に押しつけ、影響圏を広げるのを警戒している。ベトナムがカムラン湾の軍港を整備し、インドネシアも潜水艦基地を建設した」

 ――東南アジア諸国は日米と中国の板ばさみになるのは嫌なのでは。

 「カンボジア、ラオス、ミャンマーなど大陸部の東南アジアでは、中国が経済援助を注いでおり、影響力を拡大していくだろう。これらの国々が中国勢力圏に組み込まれず、世界に開かれた地域として発展していけるよう、日本も活発に経済協力を進めるべきだ」

関与と抑止で

 ――米国の対中戦略も揺れていませんか。

 「米政府内では、中国に米国債を買ってもらっている財務省が関与に傾き、安保政策を担う国防総省は抑止に軸足を置く。この間で国務省がどちらに傾くかによって、バランスが変わる」

 ――歴史問題で日中の対立が深まれば、中国は日米同盟にくさびを打ちやすくなります。

 「中国は20年代に入ると少子高齢化が進み、国力の伸長があまり期待できなくなる。そのため、いまの時期に権益を拡大しようとしているのではないか。日本は日米同盟を基軸に対抗するほかない。首相が普遍的価値を掲げ、米国や他の民主主義国との絆を重視する外交を進めるなら、歴史問題には踏み込むべきではない」

(聞き手は編集委員 秋田浩之)

 日本を代表する国際政治学者の一人。経済と安全保障の両面を踏まえたアジア太平洋の分析に定評がある。日本貿易振興機構アジア経済研究所長。愛媛県出身。コーネル大で博士号。63歳