日経・中山淳史:日本は水素大国、燃料電池車の潜在力(真相深層) ― 2013/08/07 07:44
<関連記事>
日本は水素大国 燃料電池車の潜在力(真相深層)
2013/8/6 7:28
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD2908V_Z20C13A7SHA000/?dg=1
ホンダと米ゼネラル・モーターズ(GM)が提携し、注目されている燃料電池車。だが、水素に立脚した社会を先取りする企業の動きは自動車の世界だけではない。実は水素が豊富な日本。新しい時代には最も近づいている国かもしれない。
■住宅に給電実験
3年前にできた福岡県北九州市のスマートコミュニティ実証実験場。最近始まったのは車から住宅に給電する実験だ。
使っているのはホンダが開発した燃料電池車。車で起こした電気を地域のエネルギー管理システムと連携させ、家庭に給電しながら電力をよく使う時間帯の分散が可能かどうかを調べている。
実験場に入居するのは230世帯と50の事業所。隣接する新日鉄住金の八幡製鉄所とパイプラインでつながっており、製鉄のプロセスで生じる水素を燃料電池による発電や燃料電池車に使う。生成過程では二酸化炭素が発生しているが、通常は捨てられてしまう水素を電気にして使えば地域全体としては余計な化石燃料を使わずに済む、とのコンセプトだ。
発電、熱利用、貯蔵。水素の活用法は多数ある。例えば、使う時間帯を分散して余った電力で水素をつくり、保存すれば家庭用発電機や燃料電池車に回せる。太陽光など再生可能エネルギーで水素をつくれば、さらに二酸化炭素を出さない循環が生まれる。
自治体などが主導するこうした実験場は国内に4カ所あり、石油会社や重電、自動車、鉄鋼メーカーが技術開発を競う。
実は、日本は水素大国だ。製鉄などの副生成物として大量に発生するほか、ガソリンなどを精製する際、硫黄分を取り除くためにつくる大量の水素が今後は製油所の縮小で余剰になる。日本の生産能力は年間約360億立方メートル。これに対し、石化や産業ガス、ロケット燃料などで使われる総需要は約半分だ。
余剰の能力を生かせないか。これを使えば例えば水素で動く燃料電池車が年間1500万台動かせる計算。日本は厳しい二酸化炭素の削減目標に挑み、東日本大震災の後は天然ガスの輸入増加で貿易収支の改善が課題になっている。
企業はすでに水素社会をにらんだ商品づくりを急いでいる。例えば燃料電池を使った家庭用発電機(エネファーム)は国の補助で2009年から普及が進み、設置台数は現在5万台弱。規模の拡大と材料の技術革新で最近は本体の価格が当初の4分の1程度(200万円弱)になりつつある。
そして燃料電池車。日本には現在、実験用で約50台が走っているが、価格はいずれも1台1億円前後する。だがトヨタ自動車が15年に発売する燃料電池車は500万円程度となり、日産自動車やホンダも同水準の価格で17年までに新車を発売する見通しだ。
■課題はインフラ
低価格化が可能なのはハイブリッド車などと燃料電池車の構造が似ているため。例えばトヨタは「プリウス」以降15年で500万台のハイブリッド車を生産し、コストの削減法には蓄積が多い。日本のメーカーに米欧メーカーから提携の申し出が多いのはこのためだ。
燃料電池車は水素社会に向け最も期待がかかっている。仮に15年から10年で200万台を販売したとすると1年間に必要な水素は24億立方メートル(岩谷産業などの予測)。余剰の水素生産能力の1割以上を活用できる。
もちろん課題もある。インフラの整備費は1カ所5億円以上かかる。充電施設をガソリンスタンド並みのネットワークにするのは容易ではない。
水素社会が根づくには燃料電池車に続く大型製品の創造も不可欠だ。業界推計によれば、50年の水素需要は新規の用途開発が進むか否かで約10倍もの開きが出る。
ただ、見方を変えれば水素利用は技術革新の余地が無限大ということでもある。水素社会実現への取り組みが欧米でも始動、新産業創造のための競争は激しくなってきた。先頭を走る日本にとっても負けられない正念場が巡ってきている。
(編集委員 中山淳史)
最近のコメント