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日経「変調中国」:7月28日、米国家戦略研究所(INSS)から送り込まれた米軍の研究員が北京の空港に降り立った。任務は「中国経済の崩壊が米国家安全保障に与える影響」の調査。米軍は中国のハードランディングも視野に入れて動き始めた。2013/08/03 15:07



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変調中国(上)「リコノミクス」の挑戦――改革に既得権益層の壁。
2013/08/01 日本経済新聞 朝刊 1ページ

 中国政府の新体制が始動して4カ月余り。習近平国家主席と李克強首相は景気減速に目配りしながらも、経済改革を優先する姿勢を鮮明にしている。過剰生産、過大投資、あふれるマネー――。複雑さを増す難題に対応し、経済を軟着陸させることができるのか。

 中国の経済成長率が2四半期連続で鈍り景気減速懸念が広がった翌日の7月16日。経済政策を担う李首相は北京で、円卓に居並ぶ企業経営者や経済学者らと向き合っていた。「経済指標の一時的な変動で政策を変えてはいけない」。学者肌の李氏は白い半袖ワイシャツ姿で、身ぶり手ぶりを交えて熱弁を振るった。

 「能力過剰の企業、やみくもな建設投資には資金を貸すな」「零細企業向け融資を手厚くしろ」。李氏は6月以降、こう号令をかけ続けた。念頭にあるのが生産設備、マネーの深刻な過剰に対する危機感だ。

 中国有数の産炭地、内モンゴル自治区オルドス。発電燃料向けの需要増を見込んだ開発ブームで、過去5年の財政収入は年平均32・5%伸びたが、今年1~6月は一転して前年同期で9%減った。2010年に1人当たり域内総生産(GDP)で全国トップを誇った「石炭バブル」の町は今や財政危機にあえぐ。

「4兆元のツケ」

 オルドスだけではない。08年のリーマン・ショック後、当時の胡錦濤政権が打ち出した4兆元(約65兆円)の大型景気対策。行き過ぎた投資は鉄、セメントなどの過剰生産を深刻化させ、開発後も入居が進まない「鬼城(ゴーストタウン)」を各地に残した。

 李首相はその姓から「リコノミクス」とも呼ばれる政策転換で、前政権が残した「4兆元のツケ」を清算し経済の質を上げることを目指す。大規模な景気対策は打たず、信用膨張を抑え、内需拡大など構造改革を進める――が3本柱だ。

 今年6月。中国人民銀行(中央銀行)が突然、資金供給を絞り始め、3%前後だった短期金利は一時13%台まで上昇した。「李氏のバブル退治」との見方も出たが、金利上昇が世界的な株安に波及し中国リスクへの懸念が高まると、人民銀は一転「市場の安定を守る」と表明した。

 一連のドタバタ劇を間近に見た中国の大手金融機関首脳は「管理がずさんな一部銀行を懲らしめようとして世界の反応を見誤った」と話す。「稚拙な手法は経済の混乱を招き、改革そのものが停滞しかねない」と手厳しい。

朱氏再来なるか

 習氏は政権発足後4カ月余りの間に早々と訪米を実現し、かつてのライバルで重慶市トップだった薄熙来氏を収賄などの罪で起訴した。権力基盤を確立しつつある自信の表れとみる向きも多いが、自らが共産党老幹部の子弟ら「太子党」の有力者である習氏が、既得権益層にどこまでメスを入れるかには疑問も残る。

 棺おけを用意しろ。1つは私のものだ――。今と同様にバブル懸念が強まっていた1998年、首相に就任した朱鎔基氏は自らの命も投げ出す姿勢で既得権益層と対峙した。乱脈経営に陥った広東省の外貨調達会社、広東国際信託投資公司を破産させたのを手始めに地方や国有企業の改革を推進。朱氏の改革は中国が00年代に2ケタ成長を続ける礎になったとされる。

 李首相は朱氏のようになれるのか。重要政策を話す秋の共産党「三中全会」で具体的な改革プランを示せるかが試金石になる。


変調中国(中)カネはどこに消えた――偏在マネー、成長鈍らす。
2013/08/02 日本経済新聞 朝刊 1ページ

 中国の短期金利が急上昇を始めた6月半ば。ある日系企業関係者は中国東北地方の取引先からかかってきた電話に驚いた。

 「おたくが借りたことにして、カネを回してくれないか」。トヨタ自動車系ディーラーの中国人経営者だった。長年付き合ってきた銀行から突然「貸出金利を上げさせてもらう。嫌ならよそから借りてくれ」と迫られ、身動きがとれなくなった。

経営者の苦境

 民営企業が集まる浙江省温州。「銀行の貸し渋りや貸しはがしがひどくなっている」。中小企業発展促進会の周徳文会長のもとには、苦境を訴える地元経営者が毎日のように訪れる。

 「カネはどこに消えたんだ」。習主席は今春、周囲に不満をぶつけた。資金供給量は国内総生産(GDP)の1・9倍。カネは余っているはずなのに、景気は上向かない。

 公共投資による成長をアピールしたい地方政府が資金を調達するために設立した投資会社や民間の不動産開発会社が、マネーを吸い上げ続けているからだ。

 「300万元(約5千万円)なら利回りは11%です」――。浙江省杭州市にある米小売り大手ウォルマート・ストアーズの黄龍店。入り口には4つのカウンターが並び、「理財商品」と呼ばれる金融商品の販売にしのぎを削っていた。

 最低投資額の30万元なら予想利回りは9・5%と、政府が規制する銀行の1年物定期預金金利のほぼ3倍。担当者は「新規顧客が十数人に達する日もある」と話す。

 集めた資金の投資先の一つは劇場を中心とする北京の不動産開発プロジェクト。完成時期や資金の返済計画など詳細は不透明だ。

 理財商品は投資実績によって利回りが変わるが、元本保証をうたって販売されるケースも多い。リスクは個人から銀行まで広範に広がる。

 銀行監督当局によると、規制が及びにくい「影の銀行」の主な資金源になっている理財商品の残高は146兆円(今年6月末)。昨年末からの半年で32兆円増えた。投機的なマネーの膨張を止めようとすると、必要な分野にも資金が回らなくなってしまう。

 中国の4~6月の実質GDP伸び率(前年同期比)は2四半期連続で鈍化し、政府の年間目標と同じ7・5%になった。全国主要市場の6月末の鋼材在庫量は年初比で3割増。国有鉄鋼大手、宝鋼集団(上海市)の徐楽江董事長は「(新政権発足で)経済も良くなると期待していたんだが」と落胆気味に話す。「製造業の設備の21・4%が遊んでいる」(国家統計局の馬建堂局長)

個人消費に影

 米コカ・コーラの4~6月の中国での販売数量は横ばい(前年同期は約7%増)にとどまった。汚職防止のため官僚の過剰接待などを禁じた習指導部の「倹約令」で落ち込む高額消費に加え、庶民の個人消費にも影がさしている。

 杭州で女性服販売会社を経営する曹青さん。創業7年で従業員は500人になり、今年の売上高は前年比7割増の6億元(約96億円)に増える見通し。「高成長はネット通販のおかげ」だ。中国のネット通販市場は今年、日本を抜いて世界2位の約18兆円規模に膨らむ見込み。中国に新たな成長の芽がないわけではない。

 偏在するマネーを成長分野に振り向けるパイプをつくらない限り、将来の安定成長は描けない。


変調中国(下)世界は逃げられない――「大国の責任」求め包囲網。
2013/08/03 日本経済新聞 朝刊 1ページ

 オーストラリア東部の産炭地ハンターバレー。ブルーム・フィールド社の炭鉱では数百トンの石炭を積む運搬車がうなりをあげる。ブレッド・ルイス副社長はこの半年、周辺に約40ある炭鉱の経営が急速に悪化する姿を目の当たりにしてきた。「あと10年持ちこたえられる炭鉱がどれだけあるか。まさに正念場だ」

おびえる資源国

 中国需要で一時は1トン330ドルに達した原料炭価格は半値以下に下落。スイスのグレンコア・エクストラータなど欧米の資源大手は豪東部に保有する炭鉱で人員の大幅削減を打ち出した。鉄鉱石産地の豪西部でも、資源積み出し港の建設延期や輸送プロジェクトの棚上げが相次ぐ。

 2008年のリーマン・ショック後、V字回復を果たした中国は世界経済の成長エンジンとなった。10年に日本を抜いて米国に次ぐ世界2位の経済大国に浮上。豪州やブラジルなど資源国は特需を享受し、世界の企業が中国に殺到した。だが、その後の経済減速で不動産バブルなどの懸念が表面化。世界は逆に中国リスクにおびえ始めている。

 7月28日、米国家戦略研究所(INSS)から送り込まれた米軍の研究員が北京の空港に降り立った。任務は「中国経済の崩壊が米国家安全保障に与える影響」の調査。資源需要や投資の減少が中東とアフリカの安定にどう響くか、中国からの移民が急増する可能性はあるか――。報告書は国防長官や統合参謀本部議長らが目を通す。米軍は中国のハードランディングも視野に入れて動き始めた。

真の姿を探る

 世界経済の「救世主」から「リスクの元凶」まで、中国に対する見方は楽観論と悲観論が絶えず交錯してきた。当局の情報開示が乏しく、統計の信頼性が低いことが振れを大きくする。

 7月中旬。みずほ証券アジアの沈建光チーフエコノミストが香港で顧客に配布したリポートが大きな反響を呼んだ。電力消費や貨物輸送、社会融資総量、政府の歳入などを組み合わせた独自の物差しを基に「中国の成長率は当局が発表した数字よりも落ち込んでいる」と結論づけたからだ。エコノミストは中国経済の真の姿を探ろうと懸命になっている。

 米オバマ政権は今年5月、ワシントンにゼネラル・モーターズ(GM)など大企業の幹部を集め、通商戦略の説明会を開いた。ホワイトハウス高官は中国の市場規模や投資環境などを詳細に記した数十ページに及ぶ資料を配り「環太平洋経済連携協定(TPP)をテコに中国に市場ルールの導入を迫る」と宣言した。

 米国は欧州連合(EU)とも自由貿易協定の交渉を進める。日本の参加で重みが増したTPPとEU各国の国内総生産(GDP)の合計は世界の6割を占める。貿易・投資の分野で中国包囲網を築き、透明性の確保や市場原理の導入を促すのが米国の狙いだ。

 7月にワシントンで開いた米中戦略・経済対話。中国は自由で公正な投資環境を相互に保証する投資協定の対米交渉で、初めて全分野を対象にすることを受け入れた。ルー米財務長官は「中国の新指導者は野心的な改革に取り組もうとしている」と評価した。

 変わり始めたかに見える中国は「責任ある大国」に向かうのか。世界はその影響から逃れられない。

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