日経ヴェリタス「2012年問題に備えよ―大統領選、惑星直列」を読む ― 2011/10/09 08:09
同志社大学の村田晃嗣教授は「12年は米国が率いる世界のリベラル陣営の力が衰え、相対的に中国など権威主義的国家の力が強まる構造変化が一段と進展する」と予想。
確かに米欧を中心としたリベラル陣営受難の時代。しかも、復活の兆しさえ見えず。対抗勢力として権威主義的国家を挙げるなら、中国ではなくロシア。強引に2012年問題を抜け出してきたプーチンに注目を。
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▼政変の年、2012年問題に備えよ、各国・地域で政治イベント、日本にも影響。
2011/10/09 日経ヴェリタス
今年も残すところ2カ月余り、2012年の足音が聞こえてきた。
来年は米中ロの指導者選びをはじめ国際政治イベントが続く。
混沌とした時代の到来で、日本も影響は免れない。
来る「2012年問題」をいち早く展望してみた。
▼政変の年、2012年問題に備えよ―大統領選、惑星直列。
2011/10/09 日経ヴェリタス
1年ごとにころころ代わるどこかの国の首相と異なり、国のリーダーはそう頻繁に代わらない。米国4年、フランス5年、ロシア6年(次期選挙から)……それぞれの大統領は決められた任期を全う後、選挙を迎える。来年はこの大統領選が“惑星直列”する、近代史上でも珍しい政治の1年となる。
1月の台湾総統選挙、3月のロシア大統領選、5月フランス大統領選と続く。秋になると中国の共産党大会があり、指導部の世代交代が既定路線になっている。そして11月には世界が注目する米大統領選。最後にお隣、韓国で12月に大統領選がある。
世界でこれだけ重要な政治イベントが重なるとどんな影響があるのか? 当然、国内での政治活動に忙しい指導者は内向きになり、自国優先の発言や施策が飛び出すことが予想される。
これまでは現政権が有利になるよう、選挙前に財政支出拡大策を打つ傾向があった。そこから生まれたのが選挙と経済サイクルに関する各種のアノマリー(経験則)。最も有名なのが、米大統領選とダウ平均株価の関係で、「米大統領選の前年の株価は上昇する」というものだ。ただ、近年はそうした傾向に揺らぎが見えるほか、欧州債務危機が焦点となる中、選挙前の財政拡大策は取りづらい。識者の間からは大恐慌の再来を懸念する声さえ上がる。
ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授はその一人。英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で2012年問題に警鐘を鳴らし、財政支出拡大などが使えない中で迎える選挙イヤーは「欧州危機などただでさえ非常に困難で予測不可能な問題が、一層解決不可能な状況に陥る危険性がある」と説いた。
残された手段として米国が近隣窮乏化的なドル安を志向するなら、新興国を巻き込んだ通貨戦争が再燃し、国際関係をぎくしゃくさせかねない。基軸通貨ドルの低落は、超大国米国の地位低下の反映でもある。台頭する中国など新興国とのパワーバランスがどう変わるかも注目される。
中国は世界最大の外貨準備を外交の「武器」として使う姿勢を強めている。財政赤字に苦しむ南欧諸国の国債の購入に動いているのは親切心からだけではなく、欧州連合(EU)が1989年の天安門事件後からとってきた対中武器禁輸(〓8面)の解除が狙いにあるとされる。中国は米国債の最大の保有者であり、米国債が8月上旬に格下げされた際は米政府に財政再建を進めるよう要求、軍事費の削減まで迫った。同志社大学の村田晃嗣教授は「12年は米国が率いる世界のリベラル陣営の力が衰え、相対的に中国など権威主義的国家の力が強まる構造変化が一段と進展する」と予想する。
北朝鮮でも12年は金正恩氏への世襲を進める動きがあるとみられる。韓国―北朝鮮が同時に「政治の季節」に入り、突発的な地政学リスクが意識されるかもしれない。世界の変化の中で日本も揺れ動くことになりそうだ。
▼三井住友アセットマネジメントチーフエコノミスト宅森昭吉氏
(アノマリーは有効か)
2011/10/09 日経ヴェリタス
米国経済が大統領選挙とその勝利政党によって加減速を繰り返すアノマリー(経験則)はいまも確認できる。国際通貨基金(IMF)の予測では、米国の今年と来年の経済成長率はそれぞれ前年比1.5%、1.8%。任期3年目の今年より任期4年目の方が高い成長を達成するパターンは、民主党候補が大統領になった過去のケースに沿っている。
これは単なる経験則でなく政党の行動原理に裏打ちされた動きだ。「小さな政府」志向の共和党は財政出動を控えるので物価は低下基調をたどる。金融緩和の余地が生まれ、為替はドル安に向かい輸出が刺激される。そして任期最終年の4年目に向けて成長率は高まる循環だ。一方、民主党は大統領就任直後から財政を出動させ成長率の峠は中間選挙がある2年目に迎える。3年目以降、息切れで成長率がいったん落ちるが、4年目は再び財政を使って成長率を持ち上げる。オバマ政権も同じパターンだ。
日米で最近、共通するのは季節調整のゆがみだ。雇用、生産など重要な経済指標で数字が初夏は低めに、秋には高めに出る傾向が強まっている。日米景気への悲観論は、こうした傾向を見逃している。
日本を含め世界が直面する課題はより構造的になっており、アノマリーはもはや消滅しつつある。いま必要なのはアノマリーに依った楽観論よりも、財政再建など経済の体質改善への息の長い取り組みだ。例えば為替相場をみればアノマリーの後退はすでに2000年代から見えている。
「強い米国」の連想から大統領選のドル高がいわれたが、前々回04年の選挙ではドルはむしろ下げた。大統領選の前の年は他の年より成長率が高いという傾向もいわれるが、最近は成長の水準自体が下がり、有意な比較には適さなくなっている。
各国の大統領選など政治イベントと経済の連動性が薄れているのは、政治状況の変化が根っこにあるためだ。二大政党制の国では2党の公約や政策手法が中央にさや寄せされて、たとえ政権交代があっても目に見える政策変化は起きにくい。
▼野村資本市場研究所シニアフェロー関志雄氏
(アノマリーは有効か)
2011/10/09 日経ヴェリタス
米欧ではどの政党が政権党に就いても、米国は住宅を中心とするバランスシート調整、欧州は国債を震源とするソブリン・金融危機という構造問題を抱えながら景気をいかに浮揚させるかが政策の主軸になる。
日本では、家計や企業の資金余剰で国債発行を賄える時間は確実に少なくなっている。国債償還のリスクは長期になるほど高まり、財政再建は待ったなし。日本にはほかに朝鮮半島有事という地政学リスクもつきまとう。
故金日成国家主席の生誕100周年となる12年は、「強盛大国」を掲げる北朝鮮が経済的困窮の深まりなどから軍事的暴発など予想外の動きに出る恐れもある。日本は政治的には不人気であっても、社会保障と税制の一体改革など重く苦しい改革の道を前に進むしかない。
高い経済成長は中国共産党に統治の正当性を与える。来年の党大会は省や市の幹部が地方での実績をテコに中央入りを目指す絶好の機会。重慶市の薄熙来共産党委員会書記、広東省の汪洋党委書記など次代の指導者らは地元で経済対策を強めている。
こうした動きを映し、党大会の年に成長率が高くなる景気循環が生まれている。前回2007年の党大会の時は株価は過去最高値をつけた。08年のリーマン・ショックで経済は減速したが、4兆元の財政出動で再点火。足元は景気拡大期はそろそろ終わり、いったん後退期に入るが、年明け以降、インフレ率が3%程度に落ち着いたところで政策当局は預金準備率や政策金利を下げ、地方も景気対策を本格化させるだろう。中国は日米に比べ財政出動の余力があり、景気は秋の党大会までに回復期に入るだろう。
米国でも大統領選の年には成長率が高くなる傾向がある。来年は米中両国の「政治的景気循環」のピークが20年ぶりに重なる。これは日本経済にとっても朗報だ。
もっとも、中長期では生産年齢人口の総人口に占める割合は今年を峠に低下傾向に転じる。高成長を支えてきた「人口のボーナス」も薄れてきている。日本はこうした変化への目配りが必要だ。
山本由里、野見山祐史が担当した。
▼政治以外にも色々ある「2012年問題」、団塊のリタイア本格化。
2011/10/09 日経ヴェリタス
2012年は日本の人口構成でも重要な節目の年となる。1947~49年生まれのいわゆる「団塊の世代」が、この年から順次65歳を迎えるからだ。少し前に話題になった「2007年問題」は、団塊が60歳になることで労働人口の縮小が懸念されたものだが、結果的に2007年には問題は表面化しなかった。高年齢者雇用安定法が改正・施行され、65歳までの雇用継続が義務化されたからだ。このモラトリアムが来年終わる。
団塊人口は約665万人と日本の総人口の5%を占める。この膨大な人口の労働力の多くが今後、労働市場を離れる。団塊の労働市場退出の影響は大きい。まず、短期的には「新卒採用の押し上げ要因となり、大学生の就職内定率の改善が期待される」(第一生命経済研究所)。
だが、中長期的には労働力の減少を通じた経済成長率の鈍化につながる。さらに、本格的な年金生活者となることで、2013~15年にかけて発生する毎年2兆円もの社会保障費の自然増の要因となる。個人金融資産の取り崩しが加速し、国債の国内消化の「終わりの始まり」を告げる年になるかもしれない。
▼政治以外にも色々ある「2012年問題」―東京都心でビル供給過多。
2011/10/09 日経ヴェリタス
東京駅前の旧東京中央郵便局で、スカイツリーの脇で、皇居前のパレスホテルで〓〓。東京の都心部で新しい高層ビルの建築が急ピッチで進んでいる。森ビルによると、2012年の東京23区の新規オフィス供給量(延べ床面積)は、前年比12%増の154万平方メートルの見通し。150万平方メートル超えは6年ぶりで1986年以降で3番目の高水準となる。
この大量供給で引き起こされかねないと心配されているのが、オフィスビルの2012年問題だ。
折しも定年を延長した団塊世代の本格退職開始時期とも重なり、オフィスの需要と供給のバランスが崩れかねない。都心5区のビルの空室率は9月末時点で8.64%(三鬼商事調べ)と、好不況の境目とされる5%を大きく上回っている。大量供給を受け、来年の空室率は10%前後に高まるとの声も聞かれる。
空室率が上がれば、賃料に下落圧力がかかり、不動産会社には収益悪化要因だ。ただ、震災後に一層高まった防災機能重視の姿勢から、耐震性に優れ自家発電装置などを備えた新しいビルには一定の需要がありそう。一方で、防災機能に劣る老朽化したビルでは一段の値下げを余儀なくされる二極化が進みそうだ。
▼政治以外にも色々ある「2012年問題」―五輪、開催国の株価は…。
2011/10/09 日経ヴェリタス
数少ない明るい材料の1つがロンドン五輪。7月27日の開幕前後には現地への移動や宿泊、飲食といった観光関連の消費に加え、テレビ、DVDレコーダーなど家電関連の販売も伸びると見込まれている。家電の需要増は、最終製品だけでなく半導体、電子部品などの生産サイクルにもプラスにはたらくとの見方が多い。クレジットカード大手のビザは五輪期間中だけで7億5000万ポンド(約890億円)、関連消費や生産の増加も加えれば、51億ポンド(6000億円強)の経済効果をもたらすと試算する。
だが、世界経済を揺るがす欧州危機の影響は避けられない。例えば「五輪前年の開催国の株価は上がる」という経験則。競技場や宿泊施設、運輸基盤の整備などが重なり、それを関連業種の株価が織り込んで上昇するためだ。1984年のロサンゼルス五輪から前回2008年の北京五輪まで、開催国の前年の株価は上がった。だが、英株価(FTSE100)の足元の水準は5300前後で年初の5800を大きく下回り、経験則は破られそうな雲行きだ。
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