「国債買い支え」限界迫る? 「貯蓄→銀行→国債」の悪循環ゲームの行方 ― 2011/08/02 08:45
日経ヴェリタスが指摘するように個人金融資産1476兆円も負債まみれ。負債366兆円を差し引いた純金融資産1110兆円前後は金融関係者が口を揃えて語る数字。
しかし、待てよ。「家計の預金が国債市場を支えている」は本当か?
これは金融関係者や経済紙記者に会うたびに私の口から飛び出す質問。
実際には企業のカネも銀行を経由して国債へ。日本経済新聞得意の個人金融資産だけを国債の原資とする議論は間違っているのではないか。
こんな声に応えるかのように日経ヴェリタスも「家計以外の企業部門の資金余剰も今は大きいし、この差が埋まれば直ちに国債を国内で消化できなくなる、というわけでもない」と。
つまり、まだ日本には余力があるということ。
しかし、いつまでもあると思うな個人金融資産。2012年から始まりそうな団塊世代の貯蓄取り崩しも気になる。
さらに、いつまでもあると思うな企業のカネ。円高、高い法人税、貿易自由化の遅れ、労働規制、温暖化ガス規制に電力不安が加わり「6重苦」状態で産業空洞化加速は必至。
産業空洞化と財政危機は連鎖する。余力があるうちに改革を。増税の前にやるべきことがあるだろう。今こそ日本にも「小さな政府」の議論が必要。無駄のない少数精鋭チームで「貯蓄→銀行→国債」の悪循環ゲームを終わらせて欲しい。
<関連記事引用>
▼ 個人金融資産1476兆円の実像、「6割」に偏在、流れぬマネー。
2011/07/31 日経ヴェリタス
日本人がコツコツ積み上げた巨額の個人金融資産。
それは豊かさの証しとは必ずしもいえない。
埋もれたマネーを生かし、経済を活性化する知恵こそ必要だ。
「1476兆円」という窓からは日本経済の課題が見渡せる。
「6割」に偏在 流れぬマネー 経済成長の「血液」生かし切れず
「今月1万円」「ボーナスから10万円」……。そんな一人ひとりの蓄えが積み重なり、集計される「個人金融資産」。よく1400兆円とか1500兆円とかいわれる数字が、それだ。経済成長期には「銀行預金→融資」という経路で、旺盛な企業の資金ニーズに応える役目を担い、最近では「銀行預金→国債投資」という経路で膨張する政府債務の引き受け手として、家計の懐の深さに改めて注目が集まっている。
▼高齢世帯が突出
最新データによる正確な数字は1476兆円(2011年3月末)。過去30年で4倍に増え、今や国家予算の16倍に達する規模(グラフ(1))だ。日本では常識のようなこの数字だが、ドイツの2倍強、フランスの3倍弱と国際比較してみるとその大きさが際立つ。米ボストンコンサルティンググループの調査によると、世界全体の個人金融資産は2010年末におよそ9800兆円。日本は一国でおよそ7分の1を占める。
だが、喜ぶのは早い。個人金融資産は単に額が多ければいいというものでもない。特に経済が成熟した日本では、家計部門がためたお金を新たな経済成長へと結びつけるルートがなければ、死に金となりかねない。そのためには、「2つの6割」に代表される資金の偏在を解消する必要がある。
まず1つ目の「6割」は、高齢世帯への資金の偏り。総務省の家計調査などを基に、年代別のお金の在りかを見てみると、全体の6割強の金融資産が60歳以上の高齢世帯に存在する。人口分布の比率では4割程度のグループだから、突出して多い。また資金需要の多い若い世代は住宅ローンなどの負債も両建てで多く持つから、資産残高から負債を差し引いた、純金融資産のベースで見ると世代間の格差は一層大きくなる(グラフ(2))。最も資金需要の多い30歳代がマイナス約270万円なのに対して、70歳代以上のグループは2000万円近いプラスとなる。
年齢が上がれば、長年蓄えた金融資産を多く持つのは当然だが、消費として社会に回るお金はどうしても少なくなる。家計調査では70代以上の年間消費は、30代に比べ1割強少ない。
2つ目の「6割」が預貯金への偏り。家計はためた金融資産の6割弱を預貯金に振り向けている(グラフ(3))。国を挙げての「貯蓄から投資へ」の掛け声の割に、この比率は過去20年、大きな変化がない。しかも、むしろ最近では5年連続でシェアが高まっている。
▼投資より貯蓄へ
株式市場を通じて企業の成長資金となるはずの「株式・出資金」の割合はわずか6%と、米国の31%、ユーロ圏の16%に比べ目立って低い。随分身近になったように思える投資信託にしても、約1400兆円の全体から見るとわずか4%弱の比率だ。世帯普及率も日本は8%と米国の44%と大差がつく。
個人金融資産という巨大な財布から1%が動くだけで約15兆円、10%なら150兆円の資金の流れが生まれる。これがリスク資産に向かえば経済に活力が生まれるはず、というのが国の「貯蓄から投資へ」の掛け声の背景だ。
だが、個人は掛け声通りには踊らない。バブル崩壊以来の経済の軌跡を振り返れば、家計の預金選好は正しい選択ともいえる。物価が下落するデフレ下では、相対的に貨幣価値が上昇するからだ。そして今、震災の影響も加わり家計の保守化には一層拍車がかかる。個人金融資産は経済の鏡。膠着を打破するための方策こそ重要だ。
▼ 個人金融資産1476兆円の実像
――「国債買い支え」限界迫る? (画像引用)
2011/07/31 日経ヴェリタス
経常黒字ゆえ乏しい債務問題への危機感
大もめにもめている米国の債務問題。だが、その米国の政府債務残高の対GDP比率は2011年末見通しで100%程度と、200%を突破する勢いの日本に比べ、かなり健全な水準だ。にもかかわらず、日本では米国ほどの財政再建に対する危機感が乏しく、国際金融市場でもドルが売られて円に資金が集まる。なぜか〓〓?
そのカギを握るのが、日本の経常黒字だ。経常黒字とは、海外から受け取るお金が支払う額より多い状態を示し、民間部門の高水準の貯蓄超過につながっている。つまり日本は国内で生じる資金需要を、国内のお金でファイナンスできているのだ。
政府は借金だらけの火の車でも、国全体で見れば「稼ぎのある国」なので、外国から借金する必要がない。発行残高が膨らみ、価格下落(=金利上昇)が懸念される国債も、残高の9割超を国内で消化してしまっている。
その理屈がよく分かるフローチャート(図(4))がある。日銀が四半期ごとに発表する「資金循環統計」だ。
一番右側がお金の出し手。1476兆円の個人金融資産はここに位置する。真ん中の銀行や保険会社などの金融仲介機関を通って、左側のお金を必要としている部門へと流れていく構図。「家計の預金が国債市場を支えている」といわれるのはこのことを指す。
個人の預金は、金融機関のバランスシート上は右側の負債に計上され、それが左側の資産の部の「貸出」や「証券」として、企業向け融資や国債市場に流れ、運用される。企業の資金需要が少なく、「貸出」が減ればそれに応じて「証券」(=国債)が増える。
国内の出し手からの資金の流れ(図のA)が細くなれば、その分海外からの資金(図のB)で補わねばならない。これが対外債務だ。
「海外勢の国債保有比率は過去最高ではないのか」。最新の資金循環統計の発表の際、この点に記者の質問が集中した。2010年度末の海外勢の国債保有残高が前年度比3割増え、比率は「7.1%まで上昇」と発表されたからだ。
結局、「今回は7.083%を丸めた数字で、過去に7.084%という記録があるから過去最高ではない」という結論になったが、中国など新興国が外貨準備の運用先をドル以外の資産への分散を強めている。
さしもの分厚い個人金融資産も1476兆円から左側の負債366兆円を差し引いた、純金融資産は1110兆円。一方の政府債務は1045兆円まで迫る。海外勢の国債保有比率に注目が集まる理由だ。
家計以外の企業部門の資金余剰も今は大きいし、この差が埋まれば直ちに国債を国内で消化できなくなる、というわけでもない。とはいえ、日本の国のバランスシートを考えれば、「『資産の部』と『負債の部』の両建てで、バベルの塔のように積み上げてきたが、その構図は限界に近づきつつある」(第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミスト)のが見て取れる。
【図・写真】家計の純金融資産は1100兆円あまり。政府債務は1045兆円まで迫っている
▼ 個人金融資産1476兆円の実像
――現役世代の貯蓄率は上昇傾向、30年ぶり高水準。
2011/07/31 日経ヴェリタス
30年ぶり高水準、将来不安の深刻さ映す
実際の経済は生き物。様々な変数が影響するので、単純に「個人金融資産であと何年国債を買えるか」の計算が成り立つわけでもない。
例えば家計の貯蓄率。可処分所得からどれだけ貯蓄に回したか、を示すフローの数字で、ストックである個人金融資産の増減を読む上で重要な役割を持つ。日本の家計貯蓄率は伝統的に高く、高度成長期には20%程度、1990年代初めでも15%程度あった。
だが、家計がいくら貯蓄にいそしんでも、基本的に「取り崩し」で生活する高齢世帯の数が増えれば、国全体としての貯蓄率は低下する。90年代以降急速に低下し、2008年には2.2%となった。個人金融資産へ流れ込む源流の水位は、それだけ低くなりつつある。
そんな構造の中で意味深長な、イレギュラーな動きがある。「実は貯蓄率は30年ぶりの高水準にある」というデータがあるのだ。図(5)のオレンジ色の線は、BNPパリバ証券が試算した高齢化要因を除外した現役世代の貯蓄率だ。2000年代に入ってむしろ上昇傾向で足元では70年代末の水準まで高まっているのが分かる。
これは何を意味するのか? 近視眼的には個人金融資産の減少ペースを緩め、その分、国債の国内消化余力が増すという見方もあるかもしれない。だが、問題はもっと深刻だ。
現役世代の貯蓄率上昇をもたらしているのは、将来負担への不安であり、雪だるま式に膨らむ国債残高はその象徴だ。そうであれば、「貯蓄→銀行→国債」という、従来のゲームが続けられる保証はない。自国に不安を感じる場合、預け先は国内銀行とは限らないからだ。円を嫌って、外貨建て資産での運用を大きく積み増す、いわゆるキャピタルフライト(資本逃避)が現実になるかもしれない。消費を抑制しての貯蓄が、かえって経済の活力をそぐ「節約のパラドックス」も懸念される。
やるべきは若者の将来不安を取り除くに足る社会保障改革と財政再建への本格的な取り組み。場当たり的な税制の延長でなく、戦略的な証券優遇税制(〓8面)を通じて自国の資本市場を育成し、成長企業にお金を回す仕組み作りも求められる。埋もれたマネーを活用して、停滞経済を生き返らせ、税収を増やし、借金の返済能力を引き上げなければならない。縮小均衡からは何も生まれない。個人金融資産は単に多ければいいというメンタリティーに別れを告げるときだ。(山本由里)
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