白川日銀総裁の「高橋是清」論、財政悪化への警鐘はオオカミ少年でない、国債引き受けなら通貨の信認毀損 ― 2011/05/28 23:33
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UPDATE1: 財政悪化への警鐘はオオカミ少年でない、国債引き受けは通貨の信認低下=白川日銀総裁
2011年 05月 28日 19:00 JST
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK046039120110528
[東京 28日 ロイター] 日銀の白川方明総裁は28日、都内で開かれた日本金融学会で講演し、財政悪化に警鐘を鳴らすと「オオカミ少年」のように受け取られるが、政府の支払い能力に対する信認は突如低下し長期金利が急騰する可能性がある、と強調した。日銀による国債の直接引き受けや、無原則な国債買い入れは、微妙なバランスに立つ通貨や金融システムの信認を低下させ、経済に計り知れない悪影響を与えるとの懸念を表明した。
総裁は「財政状況が悪化すると、政府の支払い能力に対する信認が低下する」とし、「民間金融機関の信認は政府の信認にも大きく左右される」と指摘。「非常時における政府の各種の積極的施策が成功するかどうかは、中長期的な財政バランスの維持に関して政府への信認が維持されているかどうかにかかっている」と述べた。そして、政府への信認の実体は「財政バランスを維持していく国民の意思」であるとして、「国民の意思と無関係に、政府が『打ち出の小づち』のように財政政策を無限に展開できるわけでない」と述べた。
現在の日本の財政の状況は「非常に深刻」だが、「長年、財政状況が悪いにもかかわらず、国債は円滑に消化され、長期国債の金利も低位で安定的に推移しているため、財政悪化に伴う危険に警鐘を鳴らす議論は、時として『オオカミ少年』のような扱いを受けることがある。しかし、どの国も無限に財政赤字を続けることが出来る訳ではない。政府の支払い能力に対する信認は非連続的に変化しうる」と述べた。
また、「財政赤字の拡大や日銀の独立性が尊重されていないと感じられる出来事が起こると、最終的に激しいインフレが生じるだろうと考える傾向が生まれる」、「はっきりしていることは、予想は非連続的に変化するということ」と指摘。「欧州周辺国のソブリン・リスク問題にみられるように、財政の維持可能性に対する信認が低下すると、財政と金融システム、実体経済の三者の間で負の相乗作用が生じ、経済活動にも悪影響が及ぶ」と述べた。
日銀が国債の買い入れを行う際、銀行券の発行残高を上限とする、いわゆる日銀券ルールについて、「時として、そうしたルールを設けることに対する批判が聞かれるが、仮に、これだけ多額の国債を買い入れている中央銀行が、その買い入れに当たっての基本原則も明らかにせずに行動すると、不確実性が増大し、リスクプレミアムが発生することから、その分長期国債金利が上昇する」と説明。 例えば「ギリシャやアイルランドの中央銀行が突然国債買いオペを大規模にはじめると状況は更に悪化する」と述べた。
戦前に国債の直接引き受けを実施し、景気浮揚に成功したとされる『高橋財政』について触れ、「高橋是清蔵相は軍部の予算膨張に歯止めをかけようとして凶弾に倒れ、結局はインフレを招いたが、たまたま軍部の予算膨張をおさえられなかったのではなく、市場によるチェックを受けない引き受けという行為自体が最終的な予算膨張という帰結をもたらした面もあったのではないか」と指摘。「引き受けという『入口』が予算膨張の抑制失敗という『出口』をもたした」と総括した。また、「今日の目でみて興味深いのは、高橋財政期の日銀による国債引き受けがあくまで『一時の便法』として始まっている事実」、「その後の歴史はこれが一時的なものではなかったことを示している」と述べ、政府関係者内の一部にある直接引き受け論をけん制した。
そして、「通貨や金融システムの信認は相互依存の関係にある。信認は空気のような存在で平時は誰もその存在を疑わないが、信認を守る努力を払わなければ、非連続的に変化し得る。そして、一旦、信認が崩れると、経済に与える影響は計り知れない」と述べた。
(ロイターニュース 竹本能文;編集 長谷部正敬 )
日銀総裁:国債引き受けなら通貨の信認毀損-金融市場不安定化も(2)
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK046039120110528
5月28日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は28日午後、都内で開かれた日本金融学会2011年度春季大会で講演し、日本銀行の国債引き受けについて、「日本銀行による国債引き受けが行われると、通貨への信認自体を毀損(きそん)することになる。こうした通貨への信認の毀損は、長期金利の上昇や金融市場の不安定化を招き、現在は円滑に行われている国債発行が困難になる恐れもある」と述べた。
このため今後の国債発行に関して、「今回の東日本大震災の後も国債の入札発行は順調に行われているが、わが国の財政状況は厳しいだけに、現在の安定的な国債発行環境を維持していくことが大事だ」と語った。
白川総裁は、「欧米や新興国を含め世界の多くの国で、中央銀行による国債引き受けは認められていない。わが国でも財政法5条が本則で日本銀行による国債引き受けを禁じている」と言及。「いったん中央銀行による国債引き受けを始めると、やがて通貨の増発に歯止めがきかなくなり、激しいインフレを招き、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたという歴史の教訓を踏まえたものだ」と説明した。
格付け会社フィッチ・レーティングスは27日、日本のソブリン債格付け見通しについて、「ステーブル(安定的)」から「ネガティブ(弱含み)」への引き下げを発表している。
財政赤字「無限に継続できない」
白川総裁は、日本の財政状況について、「財政バランスの悪化は非常に深刻だ」と言明。日本では「長期国債の金利も低位で安定的に推移しているため、財政悪化に伴う危険に警鐘を鳴らす議論は時として『おおかみ少年』のような扱いを受けることもあるが、どの国も無限に財政赤字を続けることはできるわけではない」と語り、財政再建の重要性を強調。同時に「財政バランスの改善には歳出、歳入の見直し自体が必要だ。それと並んで実質成長率の引き上げが重要だ」とも力説した。
さらに「単に物価が上昇するだけでは財政バランスは改善しない」と指摘。「何よりも必要なことは、実質成長率の引き上げに向けた地道な努力だ。景気が良くなり、実質成長率が上昇するときにはその結果として物価も上昇する」と語った。
白川総裁は、「政府の信認が低下すると、当然、保有国債の価値の下落、担保価値の下落に伴う資金調達能力の低下をはじめ、さまざまなルートを通じて、民間金融機関の信認にも影響する」と言及。「その結果、調達金利が上昇したり、流動性調達が困難化することによって、実体経済に悪影響が及ぶ」と語った。
併せて、「そうなると税収が落ち込み、政府の支払い能力に対する信認が低下する。言い換えると、ソブリン・リスク、金融システム、実体経済の間に負の相乗メカニズムが作用することになる」と述べた。
フィッチのアジア太平洋地域ソブリンチーム責任者、アンドリュー・カフーン氏は発表文で、「人口高齢化という構造的な悪化基調に対して公共財政の維持可能性を守るためには、より強力は財政健全化戦略が必要だ」と論じた。フィッチは日本の自国通貨建て長期格付けを「AA-(ダブルAマイナス)」、外貨建て長期格付けを「AA」としている。
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