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海に浮かぶ「ものづくり国家」、「職人国家」が突破口:室蘭というチョークポイントに生きる技2011/02/21 08:03

日経ヴェリタス2011年2月20日付 世界火薬庫Map


武器にも生きる職人技。
ズラリと並ぶ火薬庫を前に、指をくわえて見ているだけでいいのか。


<関連記事引用>

原子力もガラパゴス――安全規制を世界標準に(中外時評)
2011/02/13 日本経済新聞 朝刊
論説委員 滝順一

 「ガラパゴス化している印象がある」。1月に開いた政府の原子力委員会の会合でこんな意見が出た。

 ガラパゴス島の生き物のように、世界の潮流から孤立して特殊な進化を遂げているのは、日本の原子力発電所の安全規制だ。古くからの規制の仕組みを技術進歩などに合わせて抜本的に見直すことを怠り、トラブルのたびに新たな検査を付け加え、世界でもまれな非効率な規制を生んだ。

 それで安全性が高まったのかと尋ねると、専門家は首をかしげる。むしろ国民へのリスクが増した恐れすらある。政府や産業界は国をあげて原発輸出に入れあげるが、世界標準からかけ離れた島のおきてしか知らないでグローバル市場で勝てるのか。この責任は電力会社と、政府の規制当局の両方にある。

 国内約50基の原発の平均稼働率は64%。約90%の米国や韓国から水をあけられている。米韓だけではない。世界全体の原発の稼働率は1990年代以降、毎年ほぼ1%ずつ向上した。維持管理の工夫で、この間ほとんど原発の新規立地がないにもかかわらず、総発電量に占める原子力の割合を増した。

 日本は90年代半ばに稼働率が80%台半ばまで上がったが、その後は低落した。定期検査にかかる日数が、米国は約38日なのに対し日本は約140日と長い。燃料交換や検査を終えて、次の停止までの運転継続期間の平均が米国19カ月に対し、日本13カ月。停止の頻度が高く、いったん止めたらなかなか動かない。それが日本の原発だ。

 言い訳はいろいろある。地震の影響で原発が止まった。運転のやり方を変えることを地元自治体に理解してもらうのに時間がかかる。確かにそうした側面はあるだろう。

 しかし問題の根本は当事者の姿勢だ。経済性と安全を満たす、より合理的な規制の仕組みや運転の仕方を考え出し、地元住民も含め国民に理解を求めることに腰が重い。

 電力会社は低い稼働率に甘んじても経営は揺るがず、規制当局は場当たり的に検査を増やせば「原発は安全」と国民が納得すると思い込む。ともに現状維持コストの大きさを気にかけない。原発停止で温暖化ガス排出削減目標が達成できず電力業界は排出枠を海外から買った。この「国富の流出」を京都議定書が悪いと責任転嫁する。

 例えば、原発の建設・運転は電気事業法と原子炉等規制法に基づき許認可される。この2つの法律は整合性を欠き、安全基準の考え方が古めかしいと指摘される。通産省(現経済産業省)と科学技術庁(現文部科学省)が縦割りで長らく原子力政策を進めてきた遺物だ。

 国際原子力機関(IAEA)は、原発の安全管理の状況を一覧できる包括的な報告書を備えるよう各国に求めているが、日本にはこれがない。日本の規制体系が世界標準ではない一例といえるだろう。

 原発の保守管理で働く人たちが作業中に浴びる放射線の量は1人当たりでは少ない水準に抑えられている。しかし従事者の総計(集団線量)でみると、日本は欧米に比べ多い。個々には小さいが、より多くの人にリスクを負わせているのだ。これは点検期間が長く、効率の悪い作業が多いためだ。

 昨秋、室蘭にある日本製鋼所の工場を見学する機会があった。中国や米国などに出荷される原子炉圧力容器の部品が所狭しと並び、巨大な鋼塊の鍛造工程を原子力検査官らしきフランス人が熱心に見入っていたのが印象的だった。

 マラッカ海峡がアジアへの石油輸送のチョークポイントだとされるのと同じ意味で、室蘭は世界の原発建設のペースを左右する場所だといえる。ハードウエアとしての日本の原発技術は世界に誇っていいものに違いない。しかし制度は違う。

 ベトナムやトルコなど初めて原発を持つ国に輸出するにあたって、ハードだけでなく、安全にかかわる法体系や管理ノウハウも合わせて協力するのが望ましい。そのとき日本の官民は国内の仕組みとは異なる世界標準の知識を提供するのだろうか。それは二枚舌ではないか。

 原発を輸出したいから国内規制を改めろと言いたいのではない。十重二十重の検査で、原発をうまく動かす技術の進歩を押さえつけることは、経済的でもなければ安全を生むことにもつながらない。改善を望む当事者の意欲を生かし、その結果を科学的に厳密にチェックする仕組みがいい。日本が島国を脱して、国際的な安全規制の標準づくりに協力するなら、世界の原子力安全への貢献にもなる。


ニッポン再生:突破口を探る/2 原発受注支える職人技
2011/01/05 毎日新聞 朝刊

 ◇地域で伝承「次の100年も世界一」

 ドゴーン。ドゴーン。直径4メートル以上の円柱形の鋼の塊を、巨大なプレス機で何度もたたいて形を整える。熟練技術者が鋼の微妙な変化を見極め、プレス機の操作員に矢継ぎ早に指示を出す。北海道室蘭市の日本製鋼所室蘭製作所は原子力発電の心臓部、原子炉圧力容器などに使う原発の主要部材の生産世界一。プレス機を操る鍛錬課全体を指導するのは、この道40年の阿部俊則さん(57)。トップクラスの熟練工しかなれない「技能師」の肩書を持つ阿部さんは「鋼はわずかな温度差で、たたいた時の延び方が変わる。それを見極め、イメージ通りに仕上げるのが職人の腕さ」と胸を張った。

 同社は年間売上高約2000億円の規模ながら、20カ国以上、約200基の原発に主要部材を納入し、世界シェアは8割超。原発メーカーが「室蘭(製作所)の生産能力に合わせて原発の設計書を引く」と言うほどの存在だ。

 発電時に高熱、高圧にさらされる原子炉。部材づくりでは、溶接の継ぎ目を減らし耐久性を高められるかが勝負だ。一つの鋼塊から部材を削り出す一体成形が理想だが、鋼塊が大きくなるほど精錬時に不純物が混ざり品質にムラが生じやすい。しかも、納入先ごとに一つ一つ、大きさ、形、仕様が異なる「特注品」。品質が不十分で部材にひび割れが生じれば、原子炉からの冷却水漏れなど事故にもつながる。機械だけで作れず、熟練した人間の技が欠かせない。

 同製作所には、原材料の溶解、精錬から鋼塊の鍛錬、機械加工、検査まで、阿部さんのような超一級職人がいる。600トン級の鋼塊を一体成形する技術は競合他社にはなく、大型の原子炉の部材はここしか作れない。

  ×  ×  ×

 日本製鋼所のルーツは1907年発足の民間軍需工場。戦艦大和の予備の主砲や軍艦を生産した。戦後に民需転換し、原発に進出したが、旧ソ連チェルノブイリ原発事故の影響などで86年以降、世界の原発計画の多くが進まなくなった。室蘭製作所部門は93年度から7期連続の赤字に陥り、競合他社は相次ぎ原発事業から撤退した。しかし、日本製鋼所は「撤退すれば、技術力を失い、普通のメーカーになってしまう」(佐藤育男社長)と踏ん張った。

 21世紀に入ると、地球温暖化対応や新興国のエネルギー需要を背景に原発が見直され、新設計画が急増。注文増加に対応して、同製作所は年内に生産能力を3倍に高める。

  ×  ×  ×

 地元で「ニッコーさん」と親しまれる同製作所。関連工場を含む従業員約2500人の大半が北海道出身で阿部さんもその一人。父や祖父の代から働く2世、3世も珍しくなく、転職はほとんどない。郷土の職場への誇りが技術流出の防波堤になっている。

 同製作所にはかつて、企業内高校があり、阿部さんらはここで技術の基礎をみっちり学び、就職後20~30年経験を積み、ようやく超大型の部材づくりを任された。しかし、経営効率化で同高校は86年に閉鎖した。

 増産体制の中で世界一の技術をどう伝承するか。考えた末、同社は昨年5月、実習所「はがね塾」を開設。「実際にたたいてみないと、鋼の特性は身に着かない」と阿部さんは自らハンマーを真っ赤に燃える鋼に打ち落とし、若手を鍛える。「次の100年も世界一」との思いを込めて。【赤間清広】=つづく


 ■人物略歴

 ◇世界の原発建設

 世界には10年1月時点で432基の原発があり、66基が建設中。さらに74基の新設計画がある。巨大事業だけに、官民一体の受注合戦が繰り広げられており、韓国はアラブ首長国連邦(UAE)に60年間の長期運転保証や金融支援を約束、受注を勝ち取った。これに対して、日本政府はベトナムの原発建設入札で日本企業を強力にバックアップ、受注が内定した。


戦艦建造クレーン、鍛刀所…企業に息づく100年資産
2011/02/14 12:13 日本経済新聞電子版ニュース (抜粋)

■鋼板に日本刀の知恵

 北海道室蘭市にある「瑞泉鍛刀所」。小さな木造小屋の中で、刀匠の堀井胤匡さんが日本刀の原料となる玉鋼(たまはがね)をたたいて鍛える音が響く。

 日本刀をつくる鍛刀所は全国に200カ所以上あるが、瑞泉鍛刀所がユニークなのは、大手企業が運営する唯一の鍛刀所であることだ。

 運営するのは日本製鋼所。近代化で衰退していた日本刀の製作技術を維持するため、1918年(大正7年)に室蘭製作所内に鍛刀所を建設した。名工とうたわれた堀井胤明・俊秀親子を招請し、堀井家が代々刀匠を務める。胤匡さんは4代目。日本製鋼所の社員として、美術品としての日本刀を受注生産する。

 日本製鋼所は1907年(明治40年)、兵器の国産化のためアームストロング、ビッカースの英2社と合弁で室蘭市に設立された。戦後は平和産業に転換、現在は原子力発電設備の圧力容器などに使う大型鍛鋼品で世界シェア7割を握る。「日本刀も同じ鍛鋼品。基本的な製作工程は変わらず、ものづくりの原点」。室蘭製作所の高田聖司渉外・広報担当課長は語る。

 日本刀は鋭い切れ味と、折れないしなやかさを両立させるため、異なる複数の素材を組み合わせて製作する。この発想は、性質の異なる合金を鋼材に金属接合させた複合鋼板「クラッド鋼板」に通じる。同社は戦前からクラッド鋼板の研究に着手、1957年に生産を始め、石油精製、石油化学、電力、原子力、造船など幅広い産業分野に供給。同社の得意品目に育った。


<画像引用記事>

「よその国」では済まない 地政学リスクマップ
独裁国家は次の震源地
2011/2/20 21:13
http://s.nikkei.com/hxYmPg

 「バタフライ効果」。1匹のチョウの羽ばたきでさえ、遠く離れた国の気象に影響を与えるという、世界のつながりを示す言葉として使われる。明日の投資に影響を及ぼすかもしれない、世界情勢のうねり……。世界リスクマップから、読み解いていく。

 次はどこだ?

 チュニジアからエジプトに飛び火した民衆革命。その行方を国際社会が固唾をのんで見守っている。

 世界最大の原油埋蔵国、サウジアラビアに達するのか? 独裁国家が多い中央アジアに広がるのか? 北朝鮮や中国をも揺さぶるのか──。

 火の粉はマーケットにも及ぶ。原油をはじめとする国際商品、株式や為替……地政学リスク(geopolitical risk)のありかを知ることは、グローバル時代を生きる投資家の護身術でもある。

 たとえば、アフリカの小国コートジボワールの政争が、ある商品の価格高騰を演出しているのをご存じだろうか。その商品とは──チョコレートだ。

 コートジボワールは、チョコの原料となるカカオ豆の最大輸出国。世界生産の4割近くを握る。昨年11月、大統領選で野党指導者が当選したにもかかわらず、大統領が居座り続けている。その資金源を絶つ目的で今年1月末にカカオ豆の輸出禁止措置が取られ、ロンドン市場のカカオ価格が急騰した。

 先行きが読みにくい地政学リスク。だが、「次」を占うヒントはいくつかある。

 上の世界地図に「火の手」マークがついているのは、すでに政権が転覆したか、大規模なデモが起きている国。チュニジア23年、エジプト30年、リビア41年、オマーン40年……。キーワードは「長期独裁」だ。かつて「強さ」の象徴だった長期独裁が、今や「弱さ」へと覆った。独裁国家ほど危ない、とみることもできる。

 国家運営の危うさを示す参考になるのが、地図上の「民」のマーク。米国の人権団体「フリーダムハウス」が1972年から毎年公表している「世界の自由」を参考に、民主化が遅れている国をマッピングした。

 具体的には、2010年時点の世界194カ国と14地域を対象に自由度を評価。「自由」「部分的に自由」「自由なし」の3つに分類した。「自由なし」は47カ国・地域で、北朝鮮、リビア、サウジ、コートジボワール、シリア、中国などが名を連ねている。政権が転覆したチュニジアとエジプトも「自由なし」だった。

 この世界地図と、円グラフの原油埋蔵量ランキングを見比べてみよう。埋蔵量上位のサウジ、ベネズエラ、イランはいずれも「民」マークの付いた国。政治的緊張は原油高騰リスクと背中合わせであることが分かる。

 トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタンといった中央アジア諸国も「自由なし」が目立つ。トルクメニスタンは「中央アジアの北朝鮮」と呼ばれ、06年に死去したニヤゾフ前大統領が自分の金の彫像を建てたり、好物の「メロンの日」をつくったりして個人崇拝を強いていた。

 今回、素早く動いたのがカザフスタンだ。1990年から政権を握るナザルバエフ大統領が、2020年までの任期延長を画策していたが、今春にも大統領選を実施する方針を表明した。

 産油国カザフスタンはウラン(埋蔵量世界2位)、バナジウムやクロム(同1位)など豊富な地下資源を持つ。中東と並んで、この地域への革命の波及が注目されるゆえんだ。

 食料高の影響も見逃せない。世界銀行のゼーリック総裁は15日、「世界の食料価格は危険水準に達している」と警告を発した。小麦の先物価格は1年間で約7割も上昇したが、世界最大の穀物輸入国はほかならぬエジプトだ。食料高が市民の反政府感情を増幅し、人々を革命へと駆り立てた。

 エジプトに次いで小麦の輸入量が多いのはブラジル、インドネシア、アルジェリアなど。日本も世界5位程度の大口輸入国という。

 小麦以外にも価格上昇が目立つ作物としては、大豆、トウモロコシ、砂糖などがある。インフレを警戒する中国がとりわけ気をつかっているのも、食品価格の動向だ。

[日経ヴェリタス2011年2月20日付]