財政再建めぐって米欧火花、「米国の間違った欧州への忠告」は日本にもグサリ ― 2010/06/24 22:56

カナダのトロントで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)を前に米ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)で米欧が真っ向対立。
ガイトナー米財務長官とサマーズ米国家経済会議(NEC)委員長はWSJに連名で寄稿し、「財政再建を急げば、景気を腰折れさせることになりかねない」と警告。
今秋に中間選挙を控えている米国は何よりも景気回復を優先にさせたい。そのために欧州の財政再建路線をけん制。
これに対して、リスボン・カウンシル専務理事のアン・メトラーが堂々と反論。その内容がニクイこと。それはまるで日本のことのよう。どこの国も似たような問題を抱えていることがわかる。
つい先程カナダに向けて出発した菅首相。おそらく機内でWSJ記事を熟読していることでしょう。
<関連記事引用>
【オピニオン】米国の間違った欧州への忠告
アン・メトラー シンクタンク「リスボン・カウンシル」専務理事
2010年 6月 24日 17:21 JST
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_75879
今週末の20カ国・地域(G20)首脳会議の開催を控え、米国は欧州に対し、緊縮財政計画の停止を求め、一段と圧力を強めている。経済危機を乗り越えるため赤字になっても財政支出が必要と説くのは、米国のノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン氏、オバマ大統領、ガイトナー財務長官それにサマーズ国家経済会議(NEC)委員長らだ。かれらの忠告は、経済的に不合理であるほか政治的にも不適切である。さらに欧州の現実をあまりに理解していないことを露呈している。
欧州は不幸にも経済好調期に改革をしなかったという歴然とした前歴がある。例えばフランスは過去ほぼ40年間、財政が均衡したことがない。そのうちの多くの年は経済が成長していた時期が含まれており、大きな社会的混乱を引き起こさずに容易に公共支出を抑制することができたはずだ。悲しいかな、そうしなかった。
フランスだけではない。欧州連合(EU)を見渡しても、各国は過去最高ペースで債務を積み上げており、国家は特に年金など、この先どうやって給付するのか、往々にして最低限の戦略も持ち合わせずに負担を背負い込んでいる。
政治家は、「社会的正義」という大義のための行動を主張し(そして意図的に高齢化と人口減少という人口動態的な見通しには意図的に触れずに)、臆病にも責任を将来の政府と世代に転嫁した。しかし、その将来が今なのだ。遂に審判の時が来た。もう浪費はできない。
興味深いことに(格付け会社のサブプライム危機への対応が遅かったことに最近、批判がでているものの)、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は2006年に、2050年までにフランスとイタリアの債務の対GDP比が200%を超え、ポルトガルとギリシャの約2倍になると予想した。
金融危機が起きる2年前のその年にS&Pは、高齢化に関するリポートで「次の10年の初めに集団的な格付け等級の引き下げが始まる」と指摘していた。つまり今のことだ。このリポートに対し何が講じられたか。まったく何もしていない。
予想可能な将来の危機を見越して対応することは、このように過去の例を見ても不可能なのだ。有権者が遂に過去数十年で初めて財政抑制を受け入れ、賛成票さえ投じようとしているこの時に政府が債務を積み上げ、浪費すれば、どんな改善があるのか。ギリシャの破綻に近い財政状態に対し、欧州が財政赤字を拡大させることで対応すれば、何が得られるのか。それでは、国民や市場に対し、経済運営が健全で年金も安定しているという信頼感を与えることはほとんどできない。持続可能な成長が、政府が持ってもいない現金を投入することで実現することはあり得ない。そうではなく、それは世界的な競争と健全な経済運営のもとで築かれる。
現在の赤字削減努力を「緊縮」と呼ぶのは、重大な誤りだ。現状は、少なくとも収入に応じて生活していこうということを初めて真剣に試みている段階と言える。欧州は、世界経済に占める割合が低下しているほか、高齢化と財政危機により、以前のような歳出規模には戻れないだろう。たとえ現在、ある程度歳出を削減できたとしても、ベビーブーム世代が引退準備に入るため、年金給付は今後増加が続き、高齢者の増加により医療費も着実に増加する。換言すれば、財政状況は予想できる将来、引き続き不安定な状態が続くことになる。だからこそ現在の歳出削減努力が必要になる。従って、欧州がやっと始めた財政健全化に似たような動きを止めろという要求は有害なだけだ。
欧州自体にも引き続き財政刺激策を求める声がほとんどないことは、決して偶然ではない。ギリシャ、ポルトガル、スペインなど社会主義政権が現在、率先して最も厳しい緊縮政策を行っていることは注目すべきである。これらの国は歳出削減について、イデオロギー的な信念とか過去に履行した実績もない。それでもこれらの国が緊縮政策を打ち出していることは、いかに状況が深刻かについて多くを語っている。欧州には歳出を削減し、財政を健全化する以外の選択肢はない。
欧州がついに正しい道に就いた時に、大西洋の反対側から声が発せられ、ようやく財政・経済を健全化しようとする一世代に一度あるかないかという好機を無駄にしろとわれわれに要請していることは、皮肉なことだ。
(寄稿者のアン・メトラー氏は、ブリュッセルのシンクタンク「リスボン・カウンシル」の専務理事)
<関連記事>
America's Bad Advice for Europe
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704629804575324294043085392.html
Our Agenda for the G-20
By TIMOTHY GEITHNER And LAWRENCE SUMMERS
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704853404575322791729932502.html?mod=WSJ_Opinion_LEADTop
米財務長官とサマーズ氏が、G20の過度の赤字削減に警鐘
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-15952620100623?sp=true
米国:財務長官ら米紙に寄稿 「景気刺激策、継続を」 「財政再建」欧州けん制
http://mainichi.jp/select/world/news/20100624ddm008020060000c.html
UPDATE:独メルケル首相、内需拡大の要求を拒否
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_75662
メルケル独首相:財政赤字の削減は「絶対に必要」、G20で議論に
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=aSLCTCYfhc0E
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