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地政学&地経学で読み解くTPP:「アジア太平洋国家・米国」の東アジア積極的関与戦略、TPPの先にあるFTAAP構想実現が狙いか2011/10/16 08:25

地政学&地経学で読み解くTPP:「アジア太平洋国家・米国」の東アジア積極的関与戦略、TPPの先にあるFTAAP構想実現が狙いか


<関連論文引用(画像も)>

フラッシュ141
2011年6月2日
通商戦略の潮流と日本の選択

杏林大学総合政策学部/大学院国際協力研究科教授
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員 馬田 啓一
http://www.iti.or.jp/flash141.htm

世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)が難航するなか、主要国は自由貿易協定(FTA)への傾斜を一段と強めつつある。東アジアでは東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸としたFTAネットワークの構築が加速する一方で、東アジア共同体を視野に入れた広域FTA(ASEANプラス3、 ASEANプラス6)の実現に向けた検討作業が行われている。しかし、東アジアサミットに米国とロシアが参加し、ASEANプラス8という枠組みが登場したため、広域FTAの枠組みをめぐる確執は一層複雑な様相を呈している。

さらに、米国の環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加表明をきっかけにして、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の新たな目標であるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想をめぐる動きに注目が集まっている。APEC加盟国のTPP参加を通じてFTAAPの実現を図るというのが、米国の狙いといわれる。今年11月のAPECハワイ会議での基本合意に向けて、目下、参加9カ国によるTPP交渉が進行中である。

日本政府は、当初、今年6月までにTPP参加の判断を下すとしていたが、東日本大震災の影響で先送りとなった。日本を置き去りにしたまま、アジア太平洋地域の通商秩序を決める協定づくりが進んでしまうのか。日本が震災から復興するためには、世界との経済連携を深めることで、その恩恵を享受する環境をつくる努力が欠かせない。日本の通商戦略は重大な岐路に立たされているといえる。

本稿は、目下焦眉の問題となっている通商戦略の課題について取り上げる。具体的には、WTO体制とFTAのあり方、日中韓FTA、ASEANプラス6、TPP、FTAAPなどを含む東アジアおよびアジア太平洋の経済連携の新たな動き、日本のFTA戦略の再構築など、岐路に立つ日本の通商戦略について様々な視点から考察する(注1)。

▼以下抜粋

現在、主要な先進国や途上国が展開している通商政策は、世界貿易機関(WTO)を軸とする多国間の枠組みが基本となっている。それを補完するものとして、自由貿易協定(FTA)など地域間の枠組みも状況に応じて戦略的に使い分けている。これを重層的通商政策と呼ぶ。

貿易障壁を撤廃するため特定の国や地域が相互に結ぶFTAは、150以上の加盟国が交渉に参加して一斉に貿易自由化を目指すWTOにとってプラスなのか、それともマイナスなのか。WTOとFTAの関係は昔から論争の的である。FTAについては、排他的な経済ブロックになる可能性や、WTOで交渉するインセンティブを喪失させ、WTOの形骸化を招く恐れが指摘されてきた。

しかし、最近では、WTOとFTAの補完的な関係が重要だとする意見が多くなっている。第1に、FTAで域内の貿易自由化を実現すれば、グローバルな自由化を補完できるからである。第2に、FTAはWTOプラスαを実現するための手段となりうる。WTOで十分にカバーされていない分野で、FTAで先行して新たなルールをつくっていくならば、グローバルなルールづくりを目指した将来のWTO交渉の出発点にもなる。

なお、2011年中の交渉妥結を目指し、7月に閣僚会合を開いて大筋合意するというラミー事務局長のシナリオは、もはや絶望的な情勢である。2012年は米仏の大統領選挙、中国の指導部交代が予定されており、重要な政策決定は極めて困難となる。ドーハ・ラウンドは白紙撤回の恐れが出てきた。

東アジアでは二国間のFTA締結が急速に進んでいる。これまで東アジアのFTAは東南アジア諸国連合(ASEAN)が先行する形で、2003年に中国、07年に韓国、08年に日本、そして2010年にはオーストラリア(豪州)・ニュージーランド(NZ)、さらにインドとのFTAが発効となり、ASEANをハブ(軸)とする周辺6カ国とのFTA、いわゆる「ASEANプラス1」のFTAネットワークが完成している。

ASEANをハブとしたFTAに加えて、ASEANの周辺6カ国間のFTA交渉の動きも活発化している。韓国は2009年にインドとのFTAが発効しており、豪州、NZとは交渉中である。中国はNZとのFTAが2008年に発効済みで、豪州と交渉している。日本は今年2月にインドとのFTAに署名し、豪州と交渉中である。豪州とインドも今年5月にFTA締結交渉を始めることで合意している。

東アジアにおいてFTAのネットワークが広がる中で、いまだに大きな空白地帯となっているのが、日本、中国、韓国の間のFTAである。日中韓のどの二国間でもFTAは締結されていない。日中韓の域内貿易がASEANプラス6の域内貿易総額に占める割合は約3割と、東アジアにおける日中韓の存在感は大きい。今後、東アジア共同体構想の実現を視野に入れながら日中韓が軸となって東アジアを広範にカバーする広域FTAを構築していくためには、日中韓の間でFTAが締結されることが必要である。

日本にとっては日韓、日中の二国間FTAを締結するよりも、日中韓三国間でのFTA締結を一気に目指した方が得策かもしれない。しかし、日韓と中国との間では農業や知的財産権などが大きな争点となっており、日中韓のFTA実現は決して容易でない。日中韓FTAを締結できるかどうかは、東アジアの広域FTAを実現する上での試金石になっている。 ★★

環太平洋連携協定(TPP)の浮上により、アジア太平洋地域における広域FTAの誕生が現実味を帯びてきた。広域FTA構想としてはこれまで、ASEANと日中韓で構成される「ASEANプラス3」による東アジアFTA(EAFTA)、これに印豪NZが加わった「ASEANプラス6」による東アジア包括的経済連携協定(CEPEA)、さらにアジア太平洋経済協力会議(APEC)に加盟する21カ国・地域によるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の3つが議論されている。

ASEANプラス3の枠組みを支持する中国に対し、日本はASEANプラス6を主張している。経済統合の効果が大きいほか、印豪などの参加で中国の影響力を弱めたいとの思惑もある。ASEANプラス3とASEANプラス6のどちらをとるか、日中の確執が続くなかで「踏み絵」を踏まされることを嫌ったASEANは政府間協議の開始を先延ばししてきた。周辺6カ国との間ですでに「ASEANプラス1」のFTAネットワークを完成させ、その経済利益を享受できるASEANにとって、東アジア広域FTAの実現はとくに急がねばならない話ではなかった(注6)。 ★★★★

ASEANは2015年にASEAN経済共同体の創設を目指している。かつてのEC(欧州共同体)に比べれば見劣りはするが、この経済共同体に日中韓さらには印豪NZが参加するような形で広域FTAが実現に向かうとすれば、「運転席」に座って操縦桿を握るのは、ASEANということになる。

ASEANプラス3もプラス6も、米国抜きの広域FTAであることに変わりはない。しかし、2010年に東アジアサミットに米国とロシアが加わったことで、「ASEANプラス8」の枠組みが出現し、東アジア共同体の実現に向けた道筋は一層複雑になっている。 ★★★

一方、米国は「APECのFTA化」とも言えるFTAAP構想の実現に向けた動きを加速させている。米国を締め出す東アジア共同体構想に対する警戒心は強く、これを牽制する狙いがある。FTAAPを推進することで、「アジア太平洋国家」として東アジアに積極的に関与していく考えである。しかし、APECは加盟国数も多く、FTAAPの実現に向けた合意を短期間で形成できるとは考えにくい。このため、米国は2009年にTPPへの参加を表明した。これをFTAAPの核として活用していく方針である。 ★★★★★

昨年11月に横浜で開催されたAPECの首脳宣言では、FTAAP実現への道筋として、ASEANプラス3とASEANプラス6、TPPの発展を通じた3つのルートが示された。このうち最初の2つはまだ研究段階であるのに対して、TPPはすでに9カ国によって具体的な交渉に入っており、実現可能性の点から最も有力視されている。今後、APEC加盟国が相次いでTPPへ参加する「ドミノ現象」が起きる可能性もある。

APECの首脳宣言「横浜ビジョン」では、APECの将来として、「緊密な」「強い」「安全な」の3要素をもった「APEC共同体」の実現を目指すことが表明された。このうち、「緊密な」共同体とは、より強固で深化した地域経済統合を指す。具体的には、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現を意味し、ボゴール目標の延長線上に位置する。

しかし、APECからFTAAPへの移行は拘束ベースの導入を意味する。APECはこれまで緩やかな協議体として非拘束の原則を貫いてきた。東アジアの中には中国など拘束を嫌ってFTAAPに慎重な国もある。全会一致が原則のAPECでの協議は、FTAAPを骨抜きにしてしまいかねない。このため、米国はTPPへの参加を決めた。 ★★★

APECには、2001年に採択された「パスファインダー・アプローチ」という方式がある。加盟国の全部が参加しなくても一部だけでプロジェクトを先行実施し、他国は後から参加するやり方だ。TPPにはこの方式が使われている。米国はTPPの拡大を通じてFTAAPの実現を図る考えである。今年11月に米ハワイで開かれるAPECまでにTPPの枠組み交渉を妥結させたいとしている。

日本がTPPに参加すれば、アジア太平洋地域の成長を取り込むことができる。TPP参加国が日本に対する貿易障壁を撤廃するので、国内の輸出産業には大きなビジネスチャンスとなる。域内における規格や基準が統一されるなど非関税障壁分野でのメリットは計り知れない。一方、輸入品と競合する国産品を生産している産業は一段と厳しい競争に直面する。とくに農業への影響が大きいと予想される。

日本の農業の現状は厳しい。農家一戸当たりの農地面積は狭く、零細・兼業農家が多くを占め、非効率な農業生産が行われている。農業の就業人口は減少し、急速に農業従事者の高齢化が進行している。仮にTPPに参加しなくても、このままでは日本の農業はジリ貧となる。 ★★★

日本の農業政策を根本から問い直す必要がある。WTOの農業交渉における日本劣勢の構図を見れば、日本の農産物自由化(関税撤廃)はもはや避けられない流れである(注9)。今回のTPP参加を、むしろ農業改革の好機ととらえるべきであろう。 ★★★