タンポポ・ジャパンと地政学経営:北米&南米両睨み、FTA大国メキシコに注がれる熱い視線 ― 2011/07/31 10:10

<関連記事引用>
▼ ホンダ、メキシコ新工場、「フィット」北米供給、円高に対応。
2011/07/31 日本経済新聞 朝刊
ホンダはメキシコに四輪車の新工場を建設する。2012年にも着工し、14年に稼働させる。主力小型車「フィット」の次期モデルなどを生産し、北米市場に供給する。米国で売るフィットは現在、日本から輸出しているが、円高・ドル安が続くなか採算が大幅に悪化している。現地生産を拡大し、収益を改善する。
新工場はメキシコ中部のハリスコ州にある既存工場の近くに建設する方向で用地の絞り込みを進めている。投資額は200億円規模で、当初の生産能力は年間10万台程度とみられる。14年発売予定で燃費性能を大幅に向上させる次期フィットなどを生産し主力市場の米国などに供給。将来の能力増強も視野に入れる。
フィットは国内販売の3割を占める主力車種。米国では年間6万台前後のフィットを販売しており、鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)で生産・輸出している。乗用車を日本から米国に輸出する場合は2・5%の関税がかかり、円高が続くなかで輸出採算は悪化している。ホンダは1ドルあたり1円円高になれば、営業利益が150億円目減りする。
メキシコと米国は北米自由貿易協定(NAFTA)を締結しており、関税が撤廃されている。メキシコから米国に供給する体制に切り替え、採算を改善する。
メキシコの既存工場は生産能力が年間約5万台で、多目的スポーツ車(SUV)「CR―V」を米国やブラジルなどに輸出している。拡張余地が乏しく新たな用地に工場を建設する。既存工場は二輪車の生産に切り替えることも検討している。
ホンダは10年に世界で360万台を生産。日本では100万台を生産し、このうち20万台を米国に輸出した。かねて現地生産を拡大してきたが、円高の長期化を受け、主力車種の生産移管に踏み切るなど世界規模で生産体制を見直す。鈴鹿製作所は国内で販売が好調な車種を増産するなどで生産規模は維持する。
▼ トヨタ:メキシコで新エンジン工場の建設用地探す-決定事項はない
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=ag_bjCch63No
7月26日(ブルームバーグ):トヨタ自動車は、メキシコで新たなエンジン工場の建設用地を探している。
トヨタの広報担当、アナ・マリア・バジャリノ氏(メキシコ在勤)は26日、メキシコ市からの電話インタビューで、「当社は北米での事業拡大計画に基づき、新工場の建設用地について調査と分析を行っている。ただ、これまでに決定事項はなく、期限も設けていない」と語った。
同国紙レフォルマは、トヨタとホンダの関係者が新工場の建設用地を探すため同国中部のグアナフアト州を訪問したと情報源を明示せずに伝えていた。
メキシコ市にあるホンダの広報オフィスは、報道に関してコメントを控えた。
▼ マツダ戦略、新興国攻め 13年度にメキシコ工場 低燃費車拡大がカギ【大阪】
2011/06/18 朝日新聞 朝刊
マツダは17日、中長期の新たな販売戦略を発表した。メキシコで新工場を建設することや環境対応車の開発が軸。2016年3月期の世界販売で、今の3割増の170万台を目指す。
新工場は、首都メキシコ市の北西250キロにあるサラマンカ市に造り、13年度に稼働させる。交通の便がよく、部品メーカーもそろっているという。
投資額は計5億ドル(約400億円)で、生産会社の出資比率はマツダ70%、住友商事30%。13年度から年14万台規模で小型車を生産し、世界4位の自動車市場のブラジルなど中南米向けに輸出する。
国内自動車メーカーの中南米での生産は、トヨタ自動車が1959年にブラジルで始め、日産自動車も60年代にメキシコで稼働させた。ホンダも97年にブラジルで生産を始めた。
今回、マツダが進出を決めたのは、メキシコに工場がある米自動車大手フォード・モーターの傘下から離れ、自らの生産体制を見直したためだ。
17日に東京都内で会見したマツダの山内孝社長は「本格進出していなかった新興国で最も実現性があるのがメキシコだった」と述べた。現在は世界販売のうち4割を占める新興国での販売比率を、16年3月期には5割に引き上げる方針だ。先進国での新車の売れ行きは、欧州を中心に不安定なため、すでに生産・販売拠点がある中国や東南アジアのほか、新興国への輸出を増やす。
同社は30日に国内で発売する小型車「デミオ」を皮切りに、燃費を改善したエンジンや効率のいい変速機、車体の軽量化などの環境技術「スカイアクティブ」を新車に組み込む。これらの新車は、ハイブリッド車(HV)並みの燃費ながら、HVに必要な充電池や複雑な電子回路がない分、価格を抑えられるのが強みで、販売の拡大を目指す。
17日発表した12年3月期連結決算の予想では、売上高を前年同期比5・8%減の2兆1900億円、純利益を10億円と見込んだ。実現すれば黒字転換は4期ぶり。世界販売は2・6%増の130万5千台とした。4月は前年の5割程度の水準まで減っていた国内生産は、今月から通常ペースに回復したという。(諏訪和仁、木村和規)
▼ 日産・マツダが相次ぎ投資計画、中南米の開拓急ぐ、中韓勢が存在感。
2011/07/06 日経産業新聞
現地のニーズに対応
日産自動車やマツダなどが中南米市場の投資計画を相次ぎ打ち出している。中南米に現地工場を設け、コスト競争力を高める。世界4位の新車市場に成長したブラジルでは欧米勢が現地化で先行し、韓国や中国勢も急速に存在感を高めている。日系先発組のトヨタ自動車やホンダも攻めあぐねる中南米をいかに攻略するのか、日産、マツダの新興国戦略の真価が問われそうだ。
「ブラジルはマツダが参入していない最大の市場。だが、完成車輸出では為替の円高と高い関税で商売にはならない」(山内孝社長)。マツダは2013年度中に住友商事と5億ドル(約400億円)を投じ、メキシコに年産14万台の自動車生産工場を設ける。FTA(自由貿易協定)大国、メキシコの特性を生かし、ブラジルなど南米にも小型車を供給する。
日産は16年度までの中期経営計画中にブラジルに年産20万台の工場を新設し、現在約1%の市場シェアを5%以上に高める。「新興国攻略で唯一抜けていた」(カルロス・ゴーン社長)というブラジルに布石を打つ。
中南米の自動車関連の投資は活発だ。ホンダは5月、南米でブラジルに続く2カ所目となる年産3万台の自動車工場を稼働。トヨタも12年にブラジルで2カ所目となる自動車工場を設け、年7万台の生産体制を整える。住友ゴムが280億円を投じ、13年中にブラジルで自動車用タイヤの生産を始めるなど、部材メーカーの投資も広がる。
日本勢のブラジル強化策が相次ぐが、劣勢の感は否めない。10年に350万台を超え、世界4位の規模に躍り出たブラジルだが、市場シェアの7割以上を伊フィアットなど欧米4社で占める。
一方で目を見張るのが韓国勢。10年のブラジルのブランド別販売台数で現代自動車は49%増の10万6017台、現代グループの起亜自動車は2・3倍の5万4454台に急伸。現代・起亜グループはホンダを上回り、ブラジルで最も売ったアジアの自動車メーカーの盟主になった。日本貿易振興機構の海外調査部中南米課の二宮康史課長代理は、「小型車からピックアップトラックまで日本勢よりも品ぞろえがいい」と指摘。高級車に偏りがちな日本勢との違いが成長の勢いの差につながっているとみる。
国際貿易投資研究所の内田允客員研究員は「韓国勢は低所得者向けの販売戦略が巧み」と話す。特に低所得者層が利用しやすい分割払いが長いローンが充実しているという。ブラジルには賃金が週払いの習慣も残っており、「賃金週払いの就労者に向けたメニューもある」(内田氏)。現地で与信管理の厳しい日本勢と違いを出す。
韓国勢は日本勢と同様、現状は大半を輸出で対応しているが、「リスクをとってまず市場を開拓する意志が強い」(内田氏)。市場変化のスピードや現地の情勢に応じた、巧みで大胆な販売戦略はデジタル家電で海外市場を席巻したサムスン電子やLG電子と重なる。
新たに奇瑞汽車など中国勢もブラジル市場に次々参入、低価格攻勢をかけている。特に奇瑞は販売好調で現地工場を建設する計画もある。
先行する欧米勢も現地化を一段と加速している。独フォルクスワーゲン(VW)はドイツから赴任する幹部がブラジル国籍を取得し永住するケースも多々あり、研究開発拠点はブラジルで最も充実している。VWが中国で乗用車生産に乗り出した際、ブラジルで開発した「サンタナ」を生産したのは知られた話だ。
トヨタ自動車が50年代に日系人が多いブラジルで現地生産を始めるなど、日伯の自動車関係の歴史は長い。ただ80~90年代のブラジルの対外債務危機や政情不安の影響で日本勢の投資は減速。主戦場の先進国に経営資源を集中した。
実はブラジルは日産のゴーン社長が生まれ、勤務経験もある故郷。だが、欧米、中韓国勢がひしめく激戦区の競争環境は甘くない。日産、マツダなど日系後発組は南半球の自動車新大陸に食い込めるのか。市場ニーズに対応した商品の投入など、ライバル各社をしのぐ緻密(ちみつ)な戦略と迅速な経営判断が求められる。(星正道)
【表】2010年のブラジルのブランド別自動車販売台数
〓-〓 ブラジル自動車流通業者連盟調べ、乗用車・商用車の合計。トラック・バスを除く 〓-〓
順位 メーカー名 台数 〓(台) 前年比〓増減率〓(%) シェア〓(%)
1 フィアット 760,474 3.2 22.8
2 V W 697,342 1.9 20.9
3 G M 657,622 10.4 19.8
4 フォード 336,309 10.6 10.1
5 ルノー 160,306 36.4 4.8
6 ホンダ 126,432 0.4 3.8
7 現代自動車 106,017 49.2 3.2
8 トヨタ自動車 99,567 6.5 3.0
9 プジョー 90,331 10.3 2.7
10 シトロエン 84,056 21.3 2.5
11 起亜自動車 54,454 125.5 1.6
12 三菱自動車 44,609 18.9 1.3
13 日産自動車 35,907 54.3 1.1
東日本大震災対応に関連して「安全保障会議設置法」議論が浮上しないことは実に不思議である ― 2011/07/31 14:56
仲間内で東日本大震災直後から話題になっていた「安全保障会議設置法」問題。
安全保障会議設置法に基づいて安全保障会議を召集するべきだったのか。
安全保障会議を開くべきであったとすれば、どうして開かなかったのか。
東日本大震災対応を振り返り、議論は必要。検証は当然必要。
しかし、東日本大震災以後で安全保障会議設置法に言及した記事は次の2本だけ。
政治家や新聞・テレビの安全保障音痴、危機管理音痴を曝け出しているかのようだ。
<関連記事引用>
【土・日曜日に書く】政治部・阿比留瑠比 順法精神見あたらぬ菅首相
2011.7.31 02:56
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110731/plc11073102560006-n1.htm
◆市民ゲリラの原点
「菅直人首相は法治国家や議院内閣制に正しい理解があるのかなと思う。自分だけで独裁者であったら、この国は回りませんよ」
22日の参院予算委員会。たちあがれ日本の片山虎之助氏のこの指摘は的を射たものだったが、それに対する菅首相の答弁はいつものようにトンチンカンだった。
「従来の長い自民党のやり方は、ほとんどの決定を官僚任せにしてきたのを見てきたので…」
片山氏の法令や手続きは順守すべきだとの問いかけが、官僚依存は好ましくないという話にすり替えられている。菅首相はもう見たいものしか見ないし、聞きたいことしか聞こうとしない。かたくなに自分の殻に閉じこもっている。
菅首相は野党時代から三権分立の原則を否定し、「議会制民主主義は期限を区切った独裁」と主張してきた。だが、たとえ「原点は市民ゲリラ」(伸子夫人)であろうと、国民の命運を背負う国のかじ取りとなったからには、それ相応の振る舞いが求められよう。
にもかかわらず、与野党双方からの退陣要求に追いつめられた菅首相の言動は、ますます野卑に無軌道に自分勝手になってきた。
「東日本大震災を機に自分の原点に戻ってきた」
菅首相は同日夜、側近議員らと焼き鳥を肴(さかな)にこう語り、市民運動家時代への回帰を表明した。
7月に十三回忌を迎えた評論家の江藤淳氏は、かつて菅首相を「市民運動家の仮面をかぶった立身出世主義者」だと喝破した。首相は位(くらい)人臣を極めて立身出世の夢を果たした後、再び世の攪乱(かくらん)を得意とするゲリラへと立ち返ったということなのか。
◆法令を次々と無視
菅首相は就任以来、地位にふさわしい能力も心も徳も持たない「ないない尽くし」の宰相だと指摘されてきた。だが、首相にはもっと欠けているものがある。何より順法精神、ルールを守ろうという気持ちが見あたらないのだ。
菅首相は震災に当たり、安全保障会議設置法で「会議に諮らなければならない」と規定される「重大緊急事態」に該当するのを無視して安保会議を開かなかった。
また、5月には法的根拠のないまま中部電力浜岡原子力発電所の停止を要請する。7月には、唐突に担当者である海江田万里経済産業相の「安全宣言」をひっくり返し、原発へのストレステスト(耐性検査)導入を言い出した。
かと思うと、閣議にも諮らず記者会見を開いて「脱原発宣言」を打ち出し、閣内で批判されるとあっさり「個人の考え」だと引っ込めた。支離滅裂の極みである。
「私も憲法の中で、閣僚の任命・罷免は首相の専権だと十分承知している」
菅首相は20日の衆院予算委では、海江田氏が衆院解散詔書に署名しない意向を示したことについてこう牽制(けんせい)した。だが、自分に都合よく憲法は引用しても、憲法73条が内閣の事務として「法律を誠実に執行」と定めていることは頭に浮かばないようだ。
また、66条の「内閣は行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う」との規定にも無頓着で、閣内不一致も何のそのだ。
◆恥ずかしい首相
振り返れば、菅首相は昨年9月の中国漁船衝突事件では、体当たり事件を起こした中国人船長を「超法規的」に釈放・不起訴とさせた。これは結局、那覇検察審査会が船長を強制起訴すべきだと議決し、政府は赤恥をかいた形だ。
この事例で中国は、日本は恫喝(どうかつ)すれば法をねじ曲げて対応する「人治国家」であると学習したことだろう。禍根は計り知れない。
このほか菅首相は、在日韓国人から違法献金を受けていたことが発覚しても何ら責任を取ろうとしないなど、法など存在しないがごとく自由奔放に振る舞っている。
だが、為政者が法の軽視を率先垂範するような社会が成り立つものだろうか。マキャベリは「国家にとって、法律をつくっておきながらその法律を守らないほど有害なことはない」と指摘した。
また、韓非子は指導者が国を危うくする政治手法の最たるものとして、次のように記している。
「第一は、規則があるのにその中で勝手な裁量をすること。第二は、法規をはみ出してその外で勝手な裁断を下すこと」
菅首相の姿そのものであることが空恐ろしく、こんなトップをいただいていることが恥ずかしい。
「自国の首相を恥ずかしいと国民が思わざるを得ない状態になっている。ここまできたら、(首相は)もう自らが身を処することを考えられなきゃいけない」
これは平成20年11月、菅首相が当時の麻生太郎首相に退陣を迫った言葉だ。菅首相にも一片の廉恥心があり、自ら身を処してくれることを切に願う。(あびる るい)
【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 震災危機を「管理危機」にするな
2011/03/16 産経新聞 東京朝刊
◆弱い首相の時に大事件起きる
菅直人・仙谷由人民主党政権で国家危機が起きたとき、本当に大丈夫か?という国民大多数の不安は不幸にも的中してしまった。
今進行している状況は、「危機管理」に非ず。「管理危機」(レーガン米大統領暗殺未遂の際のヘイグ国務長官の言)である。野党の良識ある「政治休戦」で、土肥隆一衆院議員の竹島韓国領有権共同宣言署名も、菅首相の在日韓国人からの献金問題も吹き飛んだ感があり、「これで菅政権の寿命が延びた」との声もあるが、とんでもない話だ。菅氏は、ある程度、落ち着いたところで、東日本大震災の危機管理の大失敗の責任を取って、総辞職すべきである。
民主党は、マニフェスト(政権公約)に治安・防衛・外交全般にわたるまともな安全保障政策を盛っておらず、国家危機管理に無関心だ。護民官精神も国家観もない首相・閣僚の資格条件を欠く市民運動家が政権にあったことは、日本国民にとって不運だった。海部俊樹首相下の湾岸戦争、村山富市社会党首相下の阪神淡路大震災とオウム真理教地下鉄サリン事件のように、弱い首相の時に、大事件が起きるという危機管理ジンクスがまたまた当たってしまった。
何が「自衛隊、警察、消防(ちょっと間を置いて)、海上保安庁の活動に心から感謝」だ。菅首相は全国放映のテレビで空々しい賛辞を口にする前に、「民主党の安全保障行政欠落は政党としての誤りでした。危機管理軽視も反省します。特に仙谷前官房長官の『自衛隊は暴力装置』『海上保安庁は武器を持った集団』という発言は甚だ不当な失言で、仙谷氏に撤回させ、謝罪させます」と国民に謝ってから自衛隊10万動員と言え。
◆手の平返し何でも自衛隊頼み
それも、不見識にも2万→5万→10万と、たった2日の間に危機管理の禁忌である「兵力の逐次投入」の愚を演じ、さらに、戦後初めて予備自衛官の非常招集を行うとは、手の平を返したように何から何まで自衛隊、である。
仙谷氏も疚(やま)しい沈黙を守っていないで堂々とテレビ会見してもう一度、「自衛隊は暴力装置」と言うか、撤回して謝るか、民主党のためにも姿勢を明らかにせよ。
公共事業を目の敵にして事業仕分けするから建設業者がブルドーザーなど重機を中国や東南アジアに売ってしまい、災害地の瓦礫を撤去する者が少なく、自衛隊施設大隊に頼らざるを得ないのだ。
「政治主導」も誤りだった。政務三役で国家危機管理ができるのか? 役人のやる気をなくしたから情報や初動措置が遅れ、「オーダー・カウンターオーダー・ディスオーダー(命令・変更・混乱)」の大混乱が起きている。東京電力と首相官邸の「計画停電」の二転三転、七転八倒はその典型で、目を覆いたくなる醜態だ。国民は懐中電灯、電池、ロウソク、保存食をスーパーの棚を空にして備え、被統治能力(ガバナビリティー)の高さを示したのに、政府側はまさに統治能力(ガバナンス)の低さを天下にさらした。
阪神大震災の際と比べてよくなったのは、2点である。
◆米支援、災対法適用の進歩も
まず同盟国米国の応援を素直に受け入れ、米海軍の空母、揚陸艦の支援をもらったこと。阪神大震災の時は、村山首相は愚かにも、人命救助よりイデオロギーを優先させ、米国の支援を拒否した。
もう一つは災害対策基本法を初適用、「緊急災害対策本部」を立ち上げ、首相を本部長としたことだ。災対法では、災害対策本部長は地方自治体の首長、知事または市町村長である。大災害となり複数の自治体に及ぶ場合は、「国務大臣(国土交通相)」を長とする「非常災害対策本部」を置く。
阪神大震災時、筆者は村山首相に「経済戒厳令」と呼ばれる「緊急災害対策本部」を設置し、全権限を首相に集中する非常大権を掌握するよう強く進言した。村山首相は午後4時の記者会見ではこの進言を取り上げたのだが、周囲の猛反対で全閣僚参加の小田原評定となって大失敗した。ただ、首相にこんな大きな権限を与えると、菅首相の指導者としての資質がまともに問われることともなる。
今の側近は、未熟、未経験、不勉強で、危機管理の補佐官はいない。今、大事なことは、予備自衛官を招集するより阪神大震災や東海村原発事故を処理した各省の官僚OBを非常招集して地震と原発の諮問委員会を速やかに立ち上げることだ。名指しすれば、元官房副長官の的場順三、外交評論家の岡本行夫、元警察庁長官の国松孝次、元運輸相官房長の棚橋泰、元陸将の志方俊之の各氏らを三顧の礼をもって官邸に非常招集、OBの諮問委員会を設置すべきだ。
枝野幸男官房長官は、内閣広報大臣としては適任だが、「安全保障会議設置法」では、今回のような大災害の統一的指揮権と責任は官房長官にあり、補佐役は経済産業省原子力安全・保安院ではなく内閣危機管理監であることを思い出してほしい。国内外のボランティアを国が受け入れて、奉仕団を組織するのも国の仕事である。(さっさ あつゆき)
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