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中国の対艦弾道ミサイルで、アジアの海は中国の湖になるのか ― FOREIGN AFFAIRS JAPAN より2010/10/06 05:51

中国の対艦弾道ミサイルで、アジアの海は中国の湖になるのか ― FOREIGN AFFAIRS JAPAN より


フォーリン・アフェアーズ・ジャパンさんから怒られるかもと思いつつ、日本にとって極めて重要なことなので全文引用しちゃいます。

セス・クロプシーがSeth Cropsyとなっていますが、正しくはSeth Cropseyですよ。などと書いておいたら許してくれるかな。

現在の中国を戦前の日本と比較している点に注目を!


<関連記事引用>

FOREIGN AFFAIRS JAPAN より
http://www.foreignaffairsj.co.jp/

フォーリン・アフェアーズ・ブリーフィング
太平洋の平和を保つには
―― 中国の海軍力増強と米海軍
Keeping the Pacific Pacific
セス・クロプシー 元米海軍副次官


中国のASBMで米空母は西太平洋に立ち入れなくなる

 8月末に日本を訪問した米太平洋軍司令官・ロバート・ウィラード提督は、「中国海軍は世界で初めて対艦弾道ミサイル(ASBM)を実戦配備する瀬戸際にある」と記者会見でコメントした。対艦巡航ミサイルはすでに数多く存在するが、弾道ミサイルに比べて、その速度は10分の1程度だし、運動エネルギーも低く、破壊力も小さい。長距離巡航ミサイルの射程は600マイル程度だが、最近のペンタゴンリポートによれば、中国のASBMの射程は少なくとも1000マイルに達する。

 中国の戦略立案者は、弾道ミサイルの機動性ゆえに、海洋を航行中の大規模な甲板を持つ空母を攻撃して戦線からの離脱を強いるか、破壊できるだろうと期待している。(ASBM)射程内への米空母のアクセスは困難になるし)中国大陸から大きく離れたポイントからの攻撃目標に向けて戦闘機を出撃させようにも、(目標から600マイル以上離れていれば)次世代の戦闘機にさえ、攻撃を終えて空母へと安全に帰還できるような継続飛行能力はない。対艦弾道ミサイルの射程と精度ゆえに、中国はこれまで何度も表明してきた目的である、主要な米海軍戦力を西太平洋の多くの海域に立ち入れないようにする(アクセス拒否)能力をまさに手に入れようとしている。

 中台紛争が起きれば、これは、西太平洋の米海軍の活動にとってもっとも差し迫った脅威となる。これほどまでに中国にミサイルの射程が伸びれば、「攻撃された場合には台湾を防衛する」というアメリカのコミットメントを果たす能力が大きく損なわれることになる。米海軍はASBMによる攻撃から防衛する手段を持っていないし、そうした防衛兵器の開発を試みているわけでもない。米軍がASBNに対抗することも、その脅威を克服することもできないとすれば、アメリカのアジアにおける影響力は低下していく可能性が高い。一方で、中国が曖昧ながらも示唆している地域覇権が説得力を持つような環境になれば、南シナ海における領有権論争をきっかけに地域的な軍拡レースが起きるかもしれない。

 1995年と1996年に、クリントン大統領は、中台間の緊張がエスカレートするのを避けるために、台湾海峡に米空母を派遣したが、オーストラリア、日本、韓国を含むアメリカの同盟国は、「これまで数十年にわたって東アジアの平和を守ってきた米海軍のプレゼンスなしに、危機にいかに対処していくか」を考えざる得なくなるだろう。

 今後30年程度の時間枠で、米海軍が西太平洋からゆっくりと後退していけば、アメリカの同盟国は一気にその空白を埋めようと試み、必然的に地域的な軍拡競争が起きる。すでに7月に日本政府は潜水艦艦隊の規模をこの36年間で初めて拡大すると発表している。2009年春には、オーストラリアも第二次世界大戦以降、最大規模の防衛力増強計画を発表し、潜水艦艦隊の規模を2倍に拡充するとともに、近代的でパワフルな水上艦を調達する予定だ。

 韓国の場合、海軍力、統合戦力の近代化を試みつつも、もう一つの選択肢を検討することになるだろう。それは「駐留米軍を追い出すことを条件に、中国が韓国に安全保障を提供して、後退するアメリカの影響力を埋め合わせると申し入れてきたらどうするか」を考えることだ。

 これまでのところ、アメリカの政策決定者と分析者は、しだいに具体化しつつある中国のミサイル能力を無視している。これは、「中国の軍事力増強の脅威はまだ先の話で、現段階で真剣に受け止める必要はない」という一般認識にとらわれているためだ。だがこうした楽観論は、アメリカの大戦略が依存してきた海軍力の維持を犠牲にして、地上戦の遂行に焦点をあてた結果、誕生した考えにすぎない。だが中国の対外政策はますます攻撃性を強めており、これは、中国が軍事力、海軍力を大きく増強していることと無関係ではない。


南シナ海、黄海(東シナ海)の海洋権

 8月にウィラード提督が米空母を攻撃ターゲットにできる中国の軍事能力について懸念を示す前の数ヶ月間にわたって、中国は攻撃的な対外路線をみせた。3月に北京は「中国は南シナ海に中核利益を有する」と表明した。中国沿岸からフィリピンへと東に広がり、南はマレーシアとベトナムと接する広範な広がりを持つ南シナ海には、東アジアと中東をつないで石油その他を運ぶ重要なシーレーンがある。

 南シナの多くの島をめぐって、中国、そしてブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムなどの南アジア諸国は領有権論争を展開している。だが、「南シナ海に中核利益を有する」と表明することで、北京はこの国際海域を「あらゆるコストを支払ってでも守るべき資産」とみなしているというメッセージを送ったことになる。

 南シナ海に関する利益認識を表明した4カ月後の7月半ばの段階になっても、中国は拡大主義の海洋政策を続けた。政府系の通信社である新華社通信は、中国の軍事研究者は、朝鮮半島と中国の間の国際海域である黄海には、中国の海洋権からも海洋安全保障からみても、「中国の中核利益の中枢」があるとみていると伝えている。そして、9月には黄海周辺海域(南方の東シナ海)で衝突事件が起きた。日本の管理下にあるが、中国も主権を主張している尖閣諸島の近海を航行していた中国の漁船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突するという事件が起きた。

 8月には北京は南シナ海の海底に小型潜水艦を用いて中国の国旗を立てるという行動もみせた。南シナ海の主権をアピールするこの行動、そして、それまでの南シナ海をめぐる中国の外交的主張は、挑発的なだけでなく、国際法を踏み外している。しかも、最近の中国政府のレトリックは、こうした新たな影響圏の主張をめぐって、北京が妥協をするつもりがないことを示唆している。7月にオバマ政権が南シナ海の領有権論争をいかに解決するかをめぐって地域的なコンセンサスを模索するように提案した際にも、中国の楊(よう)潔チ外相はシンガポールの外交官に「中国は大国であり、他の諸国は小国に過ぎない。これが現実だ」と述べている。

 地域的覇権を確立しようとする強引なやり方ゆえに、「中国はどのようにして新しい地位を形作ろうとするつもりなのか」と懸念する声も聞かれる。中国の軍事力は、アメリカの東アジアにおける影響力を脅かすほどに強大化する瀬戸際にあるし、最近における北京の行動とレトリックから判断すると、これまでの伝統的な航行の自由を保障するアメリカのスタイルを好む地域諸国にとっては、暗い未来が待ち受けているだろう。

 アメリカは、航行の自由を保障するだけでなく、領有権の獲得には関心を示さず、アジアで覇権国が登場するのを阻止する政策をとってきた。これは、覇権国への道を目指す中国の路線とははっきりとしたコントランスをなしている。


海軍力とアジアの覇権

 力がものをいうという考えはアジアでは先例があるし、海軍力が力を支えるという認識も同様だ。16世紀にスペインの船がフィリピンを攻略し、19世紀から20世紀の大英帝国の時代には、イギリスが東アジアにおける海軍力の優位を手にしていた。

 しかし中国の指導者にとって、海軍力をいかに政治的パワーに置き換えるかについてもっと説得力のある事例は日本だろう。日本の歴史は、野心的でうまく武装した地域的な覇権国がアジアに登場することがいかに危険であるかを物語っている。20世紀初頭に西太平洋における支配的な海洋パワーとしての地位を確立した日本は、近隣諸国を侵略・征服して抑圧し、管理地域を急速に拡大していった、部隊や物資を船で移動させる能力は、インドからハワイにまでの広範な地域で大きな脅威を作り出した。

 日本が過去にそのような侵略行動をみせたからといって、似たような地域的な優位を手にすれば、中国がそれと同じ行動をとるはいえない。だが、中国の海軍力の増強、ASBM 技術の獲得、国際海域における領有権の主張は、オーストラリア、インド、ベトナムなどの近隣諸国を刺激し、海軍力の大幅な増強路線へと向かわせている。こうした展開は、西太平洋における強固な米海軍のプレゼンスによって保障されてきた安定と安全を今後当然視できなくなることを意味する。

 中国のASBMの脅威は深刻だが、アメリカがこれに対抗することはできる。新技術だけでなく、空母の規模を小さくして数を増やし、戦闘機の航続距離を長くできるように設計を見直せば、中国のミサイルの脅威を相殺できるだろう。

 だが、アメリカは膨大な経常赤字を抱えているし、ロバート・ゲーツ国防長官がそうした大規模な海軍力整備の有効性を疑問視しているため、米軍が中国の海軍力増強への対抗策をとる可能性は低い。したがって、当面、米政府は、西太平洋におけるアメリカの同盟関係を強化し、南シナ海における領有権論争をいかに解決するかについての広範な合意形成を目指すべきだろう。この海域での同盟諸国との軍事演習のレベルを高め、12月に予定されている沖縄およびその近海での日本との統合軍事演習を実施すべきだ。沖縄およびその近海は、東シナ海における東方境界線にあたる。

 中国の海軍力増強が突きつける危険について、オバマ政権は米海軍にかん口令を敷いているようだが、これを解除すべきだろう。米海軍が中国の海軍力増強を根拠に、米海軍力の増強とプレゼンス強化を公の場で議論することは有益だし、米海軍の「バーチャルな自己軍縮」の流れを覆すような議会の支持を形作れるかもしれない。

 東アジアにおいてより力強い安全保障、外交政策をとらない限り、アメリカは、世界のほぼ半分の人口を擁する地域の経済利益と安全のために太平洋で維持してきた穏やかな優位を手放さざるを得なくなる。だが、中国の対艦ミサイル能力がアメリカのパワーを左右することはあり得ない。それを左右するのは、今後におけるアメリカの行動だ。●

Seth Cropsy ジョージ・H・W・ブッシュ政権の米海軍省副次官を経て、現在はハドソン研究所のシニアフェロー


<原文記事>

Keeping the Pacific Pacific
The Looming U.S.-Chinese Naval Rivalry
http://www.foreignaffairs.com/articles/66752/seth-cropsey/keeping-the-pacific-pacific


<画像引用>

美军前高官建议航母瘦身反制中国DF-21D 
※なんとも刺激的な「导弹袭击美国航母示意图」
http://mil.huanqiu.com/Observation/2010-09/1134014.html


<関連記事>

日米軍事演習で「尖閣奪還作戦」 中国の不法占拠想定
2010.10.3 11:23
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101003/plc1010031124004-c.htm

日米「尖閣奪還」演習 強固な同盟 中国に明示
2010.10.3 12:42
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101003/plc1010031244007-c.htm

南シナ海の日米合同軍事演習、中国報道「尖閣“奪取”のため」
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=1005&f=politics_1005_005.shtml


中国の新型ミサイル「東風21D」は米空母を殺すゲーム・チェンジャー
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2010/08/09/5274841

「それ見たことか」とセイウチ逆襲、中国にかみつくネオコン・ボルトンが対艦弾道ミサイル(ASBM)にも言及
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2010/08/12/5281133

朝日新聞:マイヤーズ元米統合参謀本部議長・インタビュー一問一答、対艦弾道ミサイル(ASBM)にも言及
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2010/08/17/5292526

本ブログは一足お先にトシ・ヨシハラ=Toshi Yoshiharaに注目
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2010/09/20/5358403