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ケネス・ウォルツとスティーブン・ボーゲル2009/07/13 07:59

スティーブン・ボーゲル Steven Vogel


「基本的部分でウォルツの主張は正しかったと思う」 スティーブン・ボーゲル


<関連記事引用>

軍備増強に利益ない現実 スティーブン・ボーゲル(時流自論)
2004/01/11朝日新聞朝刊

 国際政治をなりわいとして研究する私たちは、複雑な理論をひねり出しては膠着(こうちゃく)状態の貿易交渉、地球温暖化対策の難問、または深刻化するテロの脅威といった現実的な問題を解明するために多くの時間を費やしている。

 時には他の研究者の理論を拝借して応用したり、手を加えたり、発展させたり、そして異論を唱えたりもする。

 しかし時折、自己反省してみては、果たしてこうした理論構築や他人の理論たたきに意味があるのかと考えてしまう。米国のシンクタンクは何億ドルもの費用と何万時間もの労力を費やして米ソ敵対関係の洗練されたモデルを構築したが、ゴルバチョフという名の男が現れたかと思うと、それら一切を無意味なものにしてしまった。

 国際関係論の標準的な教科書は、特に日本のことになるとなかなかうまく当てはまらない。

 例えば、新現実主義という学派は、経済大国は必然的に軍事大国になると唱えているが、日本は少なくとも今のところ、この理論に適合していない。

 日本があまりにこうした理論から外れているという事実に大いに注目すべきだと思い、私はこの春、この件に関して大学院向けのセミナーを開くことにした。セミナーでは毎週、国際関係論の古典的著作を1冊、そして日本に関する書籍を1冊読み、なぜ理論が現実に一致しないのかということを解明するつもりだ。
   *
 ただ、大げさに考え過ぎるのはよくない。理論も時には現実社会の出来事を明らかにする有益な概念を提供したり、政策への教訓を示唆したりし得る。

 「安全保障のジレンマ」を例に挙げてみよう。ある一国が軍事力を強化するとしたら、その国は防衛力増強で一層の安全保障が確保されるが、同時に、他の諸国への脅威となることによって安全保障の程度はより低いものになってしまう。軍事力強化が他の国々を刺激し、敵対意識を強めさせたり、対応策として軍事力強化を図らせたりしたら、結局は何も得なかったことになる。これがジレンマと言われるゆえんだ。

 ここまでのところ、この議論は私たちに大したことを教えてくれていない。と言うのも、「安全保障のジレンマ」は、軍事力拡張、縮小といずれの側の議論もできるからだ。しかし、「ジレンマ」は日本の場合だと非常に独特な形で展開される。ある防衛庁高官はこの点を非常に簡潔に指摘し、日米安全保障体制を正当化してみせた。

 「日本が防衛費を増額したら、北朝鮮や中国は反発して、日本自身の安全保障は低下するでしょう。でも、同じ額を米国に払って日本の防衛に使ってもらうとしたら、われわれ日本はもっと安全になるのですよ」

 つまり日本の場合は、第2次世界大戦での侵略の歴史に加えて、北東アジアという特有の地域性によって「安全保障のジレンマ」はとりわけ深刻な問題となる。軍備拡張によって日本は他国以上にリスクを負い、得るものは一層少なくなるのだ。
   *
 この議論は、抑止論を考えてみても裏付けられる。

 私は大学院生の頃、国際関係論という難解な世界の権威、ケネス・ウォルツの助手を務めていた。ここでもまた、理論の要点は簡単だ。核抑止は機能しているという点だけだ。核兵器は恐ろしいほど破壊的なため、各国は非常に警戒心を強める。ウォルツが強調するのは、抑止力が機能するのに、核による報復の脅威が完全に信用できるものである必要はないという点だ。つまり、どの国も、わずかな確率でも自国を壊滅状態に陥らせるような危険を冒したくないと考えるから、核の報復につながる可能性のあることは一切しないであろう、ということだ。

 ウォルツがこのような論理展開を冷静かつ優雅にするので、学生らは核兵器が素晴らしいもので、核拡散こそ世界の安全保障体制を強化してくれるという確信さえ持ってしまった。

 ウォルツは極論に走ったと思う。彼の論理を用いて反論したい気持ちにさえなった。核兵器は極めて破壊的であるから、核が多くの国に拡散することでテロリストの手に渡る危険性を、たとえわずかでも高めるようなことは許されないのだ――。しかし、基本的部分でウォルツの主張は正しかったと思う。

 日本は依然として米国の核の傘の恩恵を享受している。北朝鮮が日本を攻撃したら米国は核攻撃で応戦すると、確実にいえるだろうか。もちろん、ノーだ。では、米国がそうした行為に出ないと北朝鮮は確信しているだろうか。これもノーだ。

 ここにポイントがある。

 私は日米同盟も核抑止も賛美するつもりはない。長い目で見て、日本は日米同盟からもっと多国間の安全保障体制へ移行すべきであり、世界は核兵器の脅威を削減するよう努めるべきだと考えている。

 しかし当面、日本は2国間同盟、多国間安全保障体制、それに核抑止も加わって、うまく守られている。従って、自身の軍事力を増強したところで得るものはほとんどないばかりか、失うものは多い。

 軍備の制限を緩和しようとしている今こそ、そのことを理論上だけでなく実際問題として日本が考えるべきだろう。
   *
 Steven Vogel 61年生まれ。カリフォルニア大バークリー校準教授。父親は日本研究者のエズラ・ボーゲル氏。


<画像引用>

Steven Vogel - Political Science, UC Berkeley
http://www.polisci.berkeley.edu/Faculty/bio/permanent/Vogel,S/


<シリーズ:平和再考>

書評の書評:ジェームズ・メイヨールの「世界政治」
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2009/06/11/4357269

戦争は、それを防ぐものがないために起こる(ケネス・ウォルツ)
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2009/06/03/4339500

核兵器のない世界はよりいっそう危険 ジェームズ・シュレジンジャー
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2009/07/11/4426147

核廃絶に潜む天使と悪魔
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2009/07/12/4427766

コメント

_ Q ― 2009/07/13 18:05

>例えば、新現実主義という学派は、
>経済大国は必然的に軍事大国になると唱えているが、
>日本は少なくとも今のところ、この理論に適合していない。

日本は経済大「国」ではないからでしょうw 日本は、経済大国・アメリカの自治領にすぎなく、真の独立国家ではない。
まあ、日本は、経済大国・アメリカの経済先進自治領ということではないでしょうか?

_ (未記入) ― 2009/07/13 18:26

>しかし当面、日本は2国間同盟、多国間安全保障体制、
>それに核抑止も加わって、うまく守られている。
>従って、自身の軍事力を増強したところで得るものは
>ほとんどないばかりか、失うものは多い。

これですよね。日本は、アメリカによって、生かさず殺されずの状態にされているんでしょう。
よく、日本の右派の極一部の人の中に、日本がいかに経済大国であり、日本がいかに先進国だと説き、自惚れしているのがいるw
でも、これらの日本の地位は、アメリカに従属することによって、達成出来たものばかりです。
だから、日本の中から、アメリカから独立しようという本当の動きなど起こるわけがない。
もし、日本がアメリカから独立しようと思ったら、アメリカに従属していても、経済的な享受が受けられなくなった時でしょう。

_ Q ― 2009/07/13 18:42

>_ (未記入) ― 2009/07/13 18:26
は、私です。

_ 温い珈琲酸っぱいぞ^^ ― 2009/07/13 22:24

>アメリカに従属していても、経済的な享受が受けられなくなった時でしょう。

其れは今じゃないですか?
$が50円になったら経済的な享受ドコロか穴ノ毛まで抜かれそう泥舟から何時逃げるか?其れが問題だと思います。

_ Y-SONODA ― 2009/07/14 01:46

★Qさんへ

今まで何度も取り上げてきましたが、
結局、米国が一番恐れているのは日本の核武装なんですよ。
北朝鮮の核よりも日本の核武装の方が怖い。

米国は日本が切れたら怖い国だということを一番良く知っている。
2発もやっちゃったから今度切れたら1発ぐらいお返しされると思っているw

今回の米国のビビリ方でそれがわかった。
これから先、うまい具合に使えるかもね。

★温い珈琲酸っぱいぞ^^さんへ

まだアメリカは大丈夫ですよ。
周りがきっと支える。
まだまだ利用価値がありますからね。

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