ミヒャエル・エンデが日本に問いかけるもの(08年版) ― 2008/11/22 00:31

ミヒャエル・エンデが日本に問いかけるもの(2008年版)
●エンデの予言
1985年10月、当時大学生だった私は、いつものように調査中の遺跡の上に寝っ転がって一冊の雑誌を読んでいた。
「朝日ジャーナル」のミヒャエル・エンデの特集記事である。
エンデはドイツの児童文学作家。『ジム・ボタンの機関車大旅行』や『モモ』『はてしない物語』は日本でも人気がある。特に『モモ』が私のお気に入りだった。
遺跡発掘調査は、ほとんどの場合、壊して新たに建物を造ることが前提。
調査が終わった現場からさっさとコンクリートが流し込まれていく。迫ってくるコンクリートの谷間の縄文地層の上でこれを読んだ。
エンデは資本主義制度がダーウィニズムからくる弱肉強食を経済生活に適用させ、正当化させている点を指摘し、精神性や文化といったものがないがしろにされている状況を嘆いていた。
そして現在の金融システムをバベルの塔と呼び、いつか崩れる瞬間が来ると警鐘を鳴らしている。
そしてなぜか危機的な状況を回避するための新たな精神性が日本で生まれる可能性を示唆した。
『なぜ日本?』 そのことがずっと頭から離れない。
●時間との戦争
1990年元日、畳の上で寝っ転がってテレビを見ていたら、突然画面にエンデが登場した。
「時間の戦争が始まった~2001年日本の選択」という番組。
冒頭に世界各地の子供たちの表情を映し出し、エンデは静かに語る。すでに「時間の戦争」という第3次世界大戦が始まっており、その被害者は子供たちだと。
これは、モモが立ち向かった『闇』が子供たちの心の中にまで広がっていることを意味している。
翌91年のNHK「アインシュタイン・ロマン」で、はっきりとその戦争をしかけている実体を示す。
それは資本主義経済における成長の強制であり、悪のすべてのルーツは現在のお金のシステムと実際の経済システムとの不調和にあると語っている。
そして、希望と未来を創造できる子供たちをも巻き込んだ「文明砂漠」の『闇』が急速に広がっていると警告する。
エンデがこの番組の為に描いた「文明砂漠」のスケッチには廃虚と化したコンクリートの固まりと無数の自動車の墓場とその谷間を無邪気に歩く少年の姿が描かれている。
そしてこの番組で、日本に対して、今となっては非常に意味深いメッセージを残している。
●日本へのメッセージ
「日本は、経済的に自立し、アメリカの植民地的存在から抜け出すしか道がなかったと思います。しかし、そこでふたつのことが混じり合ったのですね。従来の古い美徳感覚が、近代的工業社会の原理と混ざり合わさったのです。つまり、連体意識一般や領主に対する忠誠は、今日では企業に捧げられています。しかしこれはこの先、葛藤を生むと思います。このふたつは、本来相いれないものです。『これは、近い将来に十分にある得ることですが、経済が少し傾けば全国民的な神経虚脱症を引き起こしてしまうのではないでしょうか。』」
「私は日本の考え方には一種の危険性があると思います。それは、どの問題においても思考を日本の関心事に限定することです。もし、このように言ってもよろしければ、それは日本の国家的なエゴイズムのようなものです。このエゴイズムは、物事が世界全体にどのような結果をもたらすかを考えず、つねにただ、日本にとってどのような結果になるかだけを考えます。私は、今世紀においては人類レベルで考えることを学ばなければならないと思うのです。そこで、まさに主導的な工業国こそが、その中でもとりわけ日本は、日本に対する責任だけでなく、世界に対する責任を負うことを学ばなければならないと思います。これが、日本の友人への大きな願いです。」
●エンデが見た日本人
最近の心痛める事件は何を意味しているのか。
感性が欠落した「灰色の男たち」の下品な発言と無縁ではないはずだ。そろそろ灰色にならなければ発言できないシステム全体の見直しが迫られているようにも思う。
かつてエンデは新たな精神性が日本で生まれる理由として日本人の肉体的構造をあげている。密度がつまっていない浸透性と繊細さに希望を見出したのである。まだ日本と深く接していなかったころの、この漠然とした表現に本質が隠れているのだろう。
私は大学卒業を前にしてアメリカン・インディアンの遺跡や居住地へと旅立った。
その時、妙に浸透性のある人たちに出会う。ある老人に彼らの聖地に連れていってもらったときは、その老人が本当に消えてしまうのではないかと心配するほどであった。
そして彼らの遺跡から発掘された土器や石器に触れた時、なぜかエンデの言葉を思い出した。
結局みんな繋がっている。そしてそれは自然との共生の中でじっくりと深く染込んできたものだろう。確かにそれは日本人の中にも存在していたように思う。
エンデにはその存在が見えたのだろうか。
エンデが見た日本人も今や絶滅種。
人間が自然を壊すこともできれば、守ることもできると考えている西洋かぶれの外来種も増えてきた。
根っこを忘れ、上から目線でキーキー吼えるエコエコ外来種が繁殖するこの国も、砂漠の中へと吸い込まれていく。
★2000年版はこちら
http://www.yorozubp.com/0007/000726.htm
オバマのインナー・サークル(5)30人委員会の結集 ― 2008/11/22 11:16
どうやらヒラリー・クリントンの国務長官就任もほぼ確実となってきました。
なんといっても注目は財務長官人事。
こちらの方もほぼ固まったようです。
財務長官に起用されるのは、ティモシー・F・ガイトナー(Timothy F. Geithner)。
現在、ニューヨーク連邦準備銀行総裁として金融危機対策に奔走している人物。
即戦力という点とウォール街出身ではないという点が評価されたのでしょう。
さて、ここで財務長官人事を振り返って見ましょう。
名前があがっていたのは、ガイトナー氏のほか、
ボルカー元連邦準備制度理事会(FRB)議長とサマーズ元財務長官でした。
実はこの3人には大きな共通点があった。
3人ともグループ・オブ・サーティー=30人委員会(The Group of Thirty)のメンバーなのです。
そして、このブログで再三ケネス・ロゴフを取り上げてきたのも、
ロゴフも同じくグループ・オブ・サーティーのメンバーだったからですね。
拙著『最新・アメリカの政治地図』でも取り上げたグループ・オブ・サーティー。
選び抜かれた国際政治・国際金融の専門家や金融政策当局者などが集う場所。
これを知らずして国際金融を語ることはできない。
陰謀論者は300人委員会じゃないと安心できないようですが、
私は今まで300人委員会など見たことも聞いたこともありません(キッパリ)
一方でグループ・オブ・サーティーは公式ホームページまであります。
混同しないでね。
ガイトナーは1961年生まれですから、まだ若手。
重鎮が集うグループ・オブ・サーティーの意向に従うことになるでしょう。
そうなると、国際協調路線に回帰するはず。
さらにはグループ・オブ・サーティーには日本人も3名います。
現在のメンバーには山口泰(前日銀副総裁)が。
名誉職として、行天豊雄(元財務官、国際通貨研究所理事長)と
緒方四十郎(元日本銀行理事、元日本開発銀行副総裁)がいる。
この3名の注目すべき点は次の通り。
山口泰は野村証券グループ・アドバイザーに就いている(05年9月就任)。
行天豊雄は野上義二(元外務事務次官)と共に、ワシントンで開かれた金融サミットを前に内閣官房参与に任命されていた(08年11月4日付)。
緒方四十郎は緒方貞子(国際協力機構理事長)の夫。
麻生太郎も緒方貞子もカトリック信徒でいずれも皇室に近い。
10月27日と11月19日に官邸で二人は会談している。
このあたりの動きから、麻生政権はグループ・オブ・サーティー対策を構築済みと考えてよい。
またガイトナーは日本にとっても極めて組みやすい相手。
ガイトナーの専門は日本と中国。
在日米大使館勤務時代には日本の不良債権問題を間近に見ており、金融危機をめぐる日本の教訓も熟知。一応日本語も話せるそうです。
やはりオバマ政権の方からも日本に接近してきましたね。
<関連記事>
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Group of Thirty
http://www.group30.org/index.htm
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