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はじけてとんだエタノールバブル2008/11/12 08:28

はじけてとんだエタノールバブル


金融危機がエタノールバブルを直撃しています。

10月31日には米エタノール生産大手のベラサン・エナジー(VeraSun Energy)が、
米連邦破産法11条の適用を申請。

原料のトウモロコシ高騰で事業採算が悪化、
これに金融危機の影響による信用収縮が追い討ちをかけ、
資金繰りに行き詰まったとのこと。

<画像>
Interactive feature: Ethanol boom and bust
http://www.ft.com/cms/s/0/6ed47d6e-9f7a-11dd-a3fa-000077b07658.html?ftcamp=ethanol_ineractive/newsletter/nov///&nclick_check=1%20

エタノールバブルについて、昨年7月にある雑誌向けに書いた原稿があります。
最大手経済紙の記者さんからリクエストがあったので、
これをそのまま以下に貼り付けておきます。
これはインターネットでは初公開です。

最後の「地球温暖化という幻想」という表現に注目して下さいね。

地球温暖化バブルだっていつはじけることやら。

エコエコのトヨタさんも同じエコでもエコロジーとエコノミーの使い分けを考える時期に来ていると思います。



『バイオエタノール音頭の光と陰』

園田義明

(※2007年7月25日の原稿)


■「畑のオイル」に群がる人々

 農業バイオテクノロジーのリーディングカンパニーとして知られる米モンサントは3−5月期(07年8月期の第3四半期)決算が前年比71%の増益となったと発表した。

 米国で遺伝子組み換えトウモロコシ種子の需要が急増していることが寄与しており、トウモロコシ生産施設に3年間で6億1000万ドルを投資する過去最大規模の計画も発表する。なんといってもトウモロコシ種子の粗利率は6割弱、モンサントにとってなんとも儲かる商材なのだ。

 モンサントのトウモロコシ種子の米国でのシェアは、遺伝子組み換え種子を積極的に導入したことや相次ぐ企業買収により6年前の10%から約25%に拡大、一方でライバルの化学大手デュポンのシェアは縮小する。

 この決算発表が行われる直前にフランス・カン大学などの研究チームはモンサントが開発した特定品種の遺伝子組み換えトウモロコシを食べさせたラット実験から、その安全性に疑問を投げかける研究結果をまとめた。

 しかし、こんな研究結果などどこ吹く風で米国農家は割高な遺伝子組み換えトウモロコシを争うかのように買い求めている。

 この背景には米国で吹き荒れるエタノールバブルの存在がある。現在米国ではトウモロコシが食糧ではなくガソリン代替燃料として注目されるバイオエタノールの原料として脚光を浴び、「畑のオイル」や「黄色いダイヤ」と呼ばれるまでになっているのだ。

■石油中毒が巻き起こす波紋

 バイオエタノールが注目を集めるきっかけとなったのは05年成立の米エネルギー政策法、この中で2012年までに年間75億ガロンのエタノール等の使用が義務づけられ、翌年の一般教書演説ではブッシュ大統領が「米国は石油中毒だ」との警鐘を鳴らしながら、バイオエタノールの研究開発の加速を打ち出した。

 さらに今年の一般教書で、2017年までにトウモロコシを中心とするバイオ燃料を現在の50億ガロンから350億ガロンに拡大するともに、ガソリン消費量を20%削減すると宣言した。

 しかも政府はこの目標達成に向けてエタノール1ガロン当たり51セントの補助金(物品税控除)を2010年まで拠出することを決め、トウモロコシの主要産地である米国中西部ではエタノール工場の建設にまで補助金を出している。

 米国は世界のトウモロコシ生産の4割、さらに輸出量の7割を占めるが、06年には輸出量とほぼ同じ量がエタノール向けに使われ、07年も5割以上増えると見られている。

 このエタノールバブルの影響でトウモロコシの価格が上昇し、食品・飼料価格への跳ね返りも懸念されるようになっている。

 今年6月1日出荷分より最大手のキユーピーが17年ぶりにマヨネーズの値上げを実施したが、同社は原料の食用油が急騰したためと説明している。大豆からトウモロコシに転作を図る米国農家が後を絶たない中、食用油の原料となる菜種や大豆の価格高騰が影響したのだ。

 また、飼料高騰のあおりを受けてハム・ソーセージ大手の日本ハムも値上げを決めるなど、その波紋は日本の食卓にまで拡がりつつある。
 
■米エタノール戦略の標的

 このコーンラッシュは米国のガソリンスタンドを劇的に変えつつある。全米各地に「E85」の看板を掲げたスタンドが急増しているからだ。

 E85とはエタノールが85%混入されているガソリンを意味し、これが給油できるスタンドの数は現在約1200カ所となっており、一年半前の約560カ所からほぼ倍増している。

 全米スタンド総数は約176000ヶ所と言われていることから、E85が給油できるのはまだ1%にも満たないが、今後更に拡大していくことは間違いない。 
 
 このE85導入推進の旗振り役を担っているのが全米エタノール自動車連合会(NEVC)。そのインターネットサイトではE85取り扱いスタンドを地図付きで紹介している。

 このNEVCの理事会はトウモロコシ団体やメタノール企業の代表者によって構成されており、メンバー企業には当然のことながらゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターの名前がある。

 実に興味深いのは、同サイトにはE85に対応するフレキシブル・フューエル・ビークル(FFV)も写真付きで紹介されているのだが、ここにGM、フォード・モーター、ダイムラークライスラーと並んで日産自動車、マツダ、いすゞの名前はあっても、トヨタとホンダの名前はない。両社とも、FFVをまだ米国で販売していないからだ。

 FFVの98年から05年までの累積生産台数は約490万台となっており、今年1月現在で約70モデルが販売されている。その内訳を見るとダイムラー・クライスラー(24モデル)、GM(18モデル)、フォード・モーター(14モデル)となっており、米自動車業界のビッグスリーがその8割を占めていることがわかる。

 ブッシュ自らが先導する米エタノール戦略はハイブリッド技術で世界市場を席巻するトヨタやホンダを標的にしているのである。

■バイオエタノール音頭の光と陰

 今年3月にブッシュはビッグスリー首脳と会談、この時ホワイトハウス南庭に搬送された三社製のFFVを前に、「環境対応策が国家安全保障上の利益にもつながる」としながら、バイオエタノールの普及が「ガソリン消費を減らす技術的突破口だ」とアピールしてみせた。

 ビッグスリーの本拠地があるミシガン州デトロイトは民主党の強力な地盤となっており、全米自動車労組(UAW)が支持するのも民主党という中で、これまでブッシュ政権はビッグスリーの窮状に冷淡だったが、中間選挙で民主党が議会の主導権を握ったことで歩み寄る姿勢が目立ってきた。

 ブッシュ政権発足以来、京都議定書離脱に見られるように地球温暖化対策に消極的な立場をとってきたが、ブッシュ本人が今年9月に行われる予定の気候変動国連首脳級会合に出席の意向を示すなど、ここにきてようやく変わりつつある。

 それにしても、今度はエタノール熱に取り憑かれたブッシュの豹変ぶりは米国の黄昏を象徴しているように見える。

 なぜなら、FFV推進とて日本のハイブリッド技術に追いつけないビッグスリーに対する一時的な救済にしか見えず、ビッグスリー首脳はトヨタが夢のハイブリッドFFV車でも開発しているのではないかとビクビクする毎日を過ごしていることだろう。

 さらにバイオエタノールも農業票欲しさに補助金をばらまくことでようやく土俵にのぼれた有様となっており、石油価格の動向に振りまわされる運命にある。

 そもそも従来からバイオ燃料の製造技術はある程度確立されており、第1次オイルショックの際にも利用が検討されたこともあったが、石油価格の下落とともにブームは消えた。

 今回はCO2削減という待ったなしの課題があるためにブームでは終わらないとの見方もあるが、トウモロコシからエタノールを精製する際、熱源として天然ガスなどの化石燃料を大量に使用するためにトータルで見ると意味がないと指摘する研究者も多い。

 こうした批判に挑むかのように、モンサントはトウモロコシのエタノール生産性を高めたハイブリッド・トウモロコシの開発に着手すると同時に、穀物メジャーのカーギルとの合弁会社であるレネセン社でエタノール生産による副産物である動物飼料の商品価値を高める研究を行っている。

 モンサントの取締役会を覗いてみるとチェイニー副大統領夫妻に近い国防最大手企業の幹部二人に会うことができる。ロバート・スティーブンスとグウェンドリン・キング女史は共にロッキード・マーチンの取締役、何と言ってもスティーブンスはロ社の会長兼社長兼CEOなのだ。

 武器として組み込まれているモンサントの種子が米国にどんな実りをもたらすかに注目しよう。米国の願い虚しく、ハイブリッド・トウモロコシが日本製ハイブリッドFFV車の強力な推進力になることだってあり得る。

 その間にも騒々しいバイオエタノール音頭によって地球の悲鳴はまたもや掻き消されていく。

 政治や票や金や技術で飾られた地球温暖化という幻想が、「足るを知る」というマインドにたどり着くことは決してないのだ。